最終更新日:2024-9-6

拒絶理由通知とは?

商標の出願が完了した後、特許庁による審査が行われます。
出願商標について、拒絶になる理由が何もなく、審査を通過した場合には、「登録査定」という審査結果が送達され、登録料を納付することで商標権が発生します。

一方で、特許庁での審査において、審査官から、「登録を認めることができない理由がある」と判断された場合、その旨が記載された「拒絶理由通知」が送達されます。
但し、拒絶理由が通知された場合でも、ただちに商標の登録が認められないというわけではなく、適切な対応を行えば、登録が認められる場合もあります。

拒絶理由の種類

登録を認めることができない理由については、商標法の条文にて規定がされています(商標法第15条)。
大まかに、メジャーな拒絶理由(①~④)とマイナーな拒絶理由(⑤~⑧)には以下の8つがあります。

〈メジャーな拒絶理由〉

①先行商標と同一又は類似の商標

出願する商標が、他人の登録商標と同一又は類似の商標で、かつ、自分の出願に係る指定商品・役務が、その登録商標の指定商品・役務と同一又は類似している場合、出願商標は、その先行商標と類似しているとして商標登録が認められません。

条文(商標法第4条第1項第11号)

当該商標登録出願の日前の商標登録出願に係る他人の登録商標又はこれに類似する商標であつて、その商標登録に係る指定商品若しくは指定役務(第六条第一項(第六十八条第一項において準用する場合を含む。)の規定により指定した商品又は役務をいう。以下同じ。)又はこれらに類似する商品若しくは役務について使用をするもの

〇最新の4条1項11号の審決

審決番号本件商標引用商標要旨判断
2023 -18572幸せのシャワーヘッド外観において明確に区別できるものであり、称呼において明瞭に聴別でき、観念においても相違するものである非類似
2023 -9687FaW TokyoFAW「Tokyo」の文字部分が、地名の「東京」を欧文字表記したものであるとしても、本願商標の上記構成及び称呼からすれば、取引者、需要者は、本願商標の構成全体をもって、一体不可分のものとして認識し、把握するとみるのが相当である非類似

②識別力の欠如

商標は独占的に保護される権利のため、一般的に広く使用されるべき言葉には商標登録が認められません。
従って、識別力(オリジナリティ)の無い要素のみで出願した場合、拒絶理由が通知されます。

条文(商標法第3条第1項第3号)※識別力に関する条文は他にもありますが、代表的なものを記載いたします。

その商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、形状(包装の形状を含む。第二十六条第一項第二号及び第三号において同じ。)、生産若しくは使用の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格又はその役務の提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、態様、提供の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標その商品の産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、形状(包装の形状を含む。第二十六条第一項第二号及び第三号において同じ。)、生産若しくは使用の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格又はその役務の提供の場所、質、提供の用に供する物、効能、用途、態様、提供の方法若しくは時期その他の特徴、数量若しくは価格を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標

〇最新の3条1項3号の審決

審決番号本件商標指定商品・役務要旨判断
2023 -8691骨格ベクトルトレーニング第41類「技芸・スポーツ又は知識の教授,講演会・研修会又はセミナーの企画・運営又は開催」等「骨格ベクトルトレーニング」の語が、役務の質を表すものとして、一般に使用されている事実は発見できなかった登録
2023-000597チーク第9類「眼鏡,サングラス,コンタクトレンズ」等「チーク」の文字を商品の品質を表示したものと認識するというべき事情は発見できなかった。登録

③広範囲な商品・役務を指定した場合

商標は、現在又は将来使用予定の商品・役務において、保護が認められます。
従って、1つの区分において広範囲にわたる商品・役務を指定した場合や、複数種の小売等役務を指定した場合等には、それら商品・役務を本当に使用する意思があるか、拒絶の理由が通知されます。
本件の拒絶理由が通知された場合でも、使用意思の宣誓書を提出することにより、拒絶理由を回避 ・解消することができます。
※小売業(第35類)において、本件の拒絶理由が通知されることが多いです。

条文(商標第3条第1項柱書)

自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標については、次に掲げる商標を除き、商標登録を受けることができる。

④指定商品・役務の記載や区分が不明確である場合

指定商品・役務の記載が分かりにくい場合や指定する区分が相違する場合、商標の保護範囲を明確にするための拒絶理由が通知されます。
ほとんどの場合、審査官から、適切な区分や指定商品・役務の表現の提案がありますが、審査官もその内容を把握できない場合には、その商品・役務の内容の説明を求められることもあります。

条文(商標第6条第1項及び第2項)

商標登録出願は、商標の使用をする一又は二以上の商品又は役務を指定して、商標ごとにしなければならない。
前項の指定は、政令で定める商品及び役務の区分に従つてしなければならない。

〈マイナーな拒絶理由〉

⑤公益商標

赤十字安全標識政策名自治体の標語名が顕著に含まれていたり、当該標識と同一又は類似したりする商標は、商標登録することができません。
キャラクターの一部に含まれている場合にも、拒絶理由が通知されるおそれがありますので注意しましょう。

条文(商標第4条第1項第4号)

赤十字の標章及び名称等の使用の制限に関する法律(昭和二十二年法律第百五十九号)第一条の標章若しくは名称又は武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律(平成十六年法律第百十二号)第百五十八条第一項の特殊標章と同一又は類似の商標

条文(商標第4条第1項第6号)

国若しくは地方公共団体若しくはこれらの機関、公益に関する団体であつて営利を目的としないもの又は公益に関する事業であつて営利を目的としないものを表示する標章であつて著名なものと同一又は類似の商標

〇4条1項6号の審決

審決番号本件商標指定商品・役務要旨判決
昭和 58 年審判第 23669 号五輪第16類「台所用品、日用品」わが国おいて「オリンピック」の俗称として広く一般世人に親しまれ、かつ、「ゴリン」の称呼をもって普通に使用されているのが実情であり、これに接する者は「オリンピック」に通ずるものであると容易に理解し、把握すると判断するのが相当である拒絶

⑥公序良俗違反

「○○大学」や「○○士」のように、国が定めた大学、資格と、誤認を生じるような商標は、商標登録することができません。
歴史上の人物名も、公序良俗違反として登録が認められないおそれがありますので注意しましょう。

条文(商標第4条第1項第7号)

公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標

「国家資格等を表す又は国家資格等と誤認を生ずるおそれのある商標(「××士」「××博士」等)の取扱い」(特許庁)より引用

⑦他人の氏名または名称

2024年4月1日から要件が緩和されたことにより、一般的に、他人の氏名が含まれた商標も登録ができることになりました。
但し、名称や有名な他人の氏名が含まれた商標は、人格的利益の観点より商標登録することができないことがありますので、注意しましょう。
ちなみに、氏名は人物名、名称は会社名、屋号を指します。

条文(商標第4条第1項第8号)

他人の肖像若しくは他人の氏名(商標の使用をする商品又は役務の分野において需要者の間に広く認識されている氏名に限る。)若しくは名称若しくは著名な雅号、芸名若しくは筆名若しくはこれらの著名な略称を含む商標(その他人の承諾を得ているものを除く。)又は他人の氏名を含む商標であつて、政令で定める要件に該当しないもの

⑧周知・著名商標と同一又は類似の商標

他人の商標が未登録の場合でも、その他人の商標が著名又は周知の商標である場合、その商標と同一又は類似の商標は商標登録できない可能性があります。
このとき、商標だけでなく、指定する商品・役務との関係も考慮して判断されます。

条文(商標第4条第1項第15号)

他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標(第十号から前号までに掲げるものを除く。)

拒絶理由が通知された場合の対応・注意点

拒絶理由通知を受けた場合、補正書又は意見書を提出することが一般的な対応方法です。

補正書とは、出願内容を修正する書類です。
指定商品・役務の記載を減縮したり、適切な表現に修正したりすることができます。
このとき、指定商品・役務を追加したり、商標を変更したりするなどの要旨変更(根本的な内容の変更)にあたらないよう注意が必要です。
例えば、他人の商標と一部の範囲で類似していると判断された場合、その他人の商標に係る指定商品・役務と抵触しないよう、自分の指定商品・役務を減縮することが考えられます。

意見書とは、審査官の判断に対して、反論や意見を主張する書類です。
商標が登録になるべき旨を主張することで、審査官に再考してもらうことが可能です。

なお、拒絶理由通知へ対応する上で注意しておくべきことは、期間です。
通常、日本の出願人の場合、拒絶理由への対応は、拒絶理由通知の送達日から40日以内と定められています。
この期間は、特許庁へ手続きを行うことで延長することが可能ですが、期間を過ぎた提出は認められないため、十分な注意が必要です。
拒絶理由が通知されたら、まずは内容の他に、提出期限も確認するようにしましょう。

拒絶理由通知の応答後について

拒絶理由通知を受けても補正書や意見書を提出しなかったり、提出をしても拒絶理由を解消できなかったりする場合には、特許庁から「拒絶査定」という通知を受けることになります。
拒絶査定から一定の期間が経過し、特許庁に何も手続きを行わなかった場合、「出願した商標の登録が認められない」という結果が確定してしまいます。

一方で、この拒絶査定に不服がある場合には、この期間(拒絶査定から3か月以内)に、特許庁に対して拒絶査定不服審判を請求することによって、審査の妥当性について審判で争うことができます。
審判の結果によっては、再審査の流れとなり、拒絶査定を登録査定に覆すことが可能です。

このように、特許庁からの「商標登録が認められない」という審査結果に対しては、何度か反論・対応等行う機会があります。

諦めずにチャレンジすることが重要ですが、しっかりと根拠のある、要点をおさえた対応をすることにも注意する必要があります。

【ポイント】ここだけは押さえて!

  • 拒絶理由通知書が通知されたら、まずは拒絶理由の内容と提出日の締め切りを確認するようにしましょう。
  • 拒絶理由の内容によっては、補正書又は意見書の対応で解消する可能性があります。
  • 補正書や意見書での対応は、要旨の変更にならない範囲で作成する必要があります。
  • 書類提出の締切日から遡って、応答書類は計画的に作成に取りかかりましょう。

少しでもわからないことがある場合には、弁理士や特許事務所のプロにお願いすることをお勧めします。