商標登録出願の際には、もちろん、登録を希望する商標が必要です。
しかし、それだけでは出願はできません。

商標登録出願時には、その商標を使用する目的(実質的にどのような商品/サービスに使用するのか)を指定する必要があります。
この、商標を使用する目的として指定したものを「指定商品・指定役務」と言います。

「指定商品・指定役務」はとても大切で、万が一誤ったものを指定してしまうと、仮に商標登録が認められたとしても、実際にビジネスに活用できないという事態に陥りかねませんので、ぜひ気を付けていただければと思います。

「指定商品・指定役務」を間違えると商標登録が無意味に?

上述の通り、商標登録出願をする際には、登録を希望する商標と共に「指定商品・指定役務」を記載して提出する必要があります。

そして、登録が認められた商標は、出願時に「指定商品・指定役務」として指定した範囲においてのみ独占して使用する効力を持ちます。

例えば、ある商標について、Aという商品のみを指定して登録した場合、Bの商品には商標権の効力が及ばない場合があります。

また、本来は商標をBの商品に使用する予定だったのに、誤ってAの商品を指定して登録してしまうと、Aの商品 を指定した商標登録は使い道もなく放置されることになり、結果、第三者から「不使用取消」を求められてしまうおそれがあります。

これが認められると、その時点で請求された登録商標を使用していない範囲(指定商品・指定役務)で商標権は消滅してしまいますので、注意が必要です。

商標登録を目指す際には、必ず「指定商品・指定役務」を適切に決定する必要があり、これを誤ってしまうと商標登録が意味をなさない事態に陥ることをよく覚えておきましょう。

なお、上述のとおり、指定商品・指定役務とは、実質的に商標を使用して提供する商品・サービスを意味するため、形式的に商標を印字する媒体・物体ではないことにも注意が必要です。

弁理士や特許事務所を利用せずに、自分で手続きを行う方でよくある指定商品・指定役務の間違いとしては以下のようなものがあります。

よくある指定商品・指定役務の間違い

第16類:「名刺用紙」

これは単に「名刺」に会社やブランドの名前やマークを印字するのみの場合には該当せず、「名刺」を商品ブランドとして提供するような場合に該当(指定)するものとなります。

例)被服に使用するブランドの名称を「名刺」に印字してお客さんに配布する場合、指定商品「名刺用紙」を指定する必要があるか?

→この場合、実質的に商標を使用しているのは「被服」であり、「名刺」はこの被服に使用する商標を単に広告していると考えられるため、指定が必要なのは第16類:「名刺用紙」ではなく、第25類:「被服」であると考えられます。

第16類:「家庭用食品包装フィルム」 第20類:「プラスチック製包装容器」

上記と同様、「包装容器」や「包装フィルム」に会社やブランドの名前やマークを印字するのみの場合には該当せず、「包装容器」や「包装フィルム」を商品ブランドとして提供するような場合に該当(指定)するものとなります。

例)野菜に使用するブランドのマークを商品が包装されている「プラスチック製の容器」や「食品包装フィルム」に印字している場合、指定商品「家庭用食品包装フィルム」、「プラスチック製包装容器」を指定する必要があるか?

→この場合も、実質的に商標を使用しているのは「野菜」であり、商標を印字している「プラスチック製の容器」や「食品包装フィルム」は、「野菜」を包装するために付随して用いられているにすぎないことから、「プラスチック製の容器」や「食品包装フィルム」のブランドとしてマークが使用されているものとは考え難いです。

したがって、指定が必要なのは第16類:「家庭用食品包装フィルム」や第20類:「プラスチック製包装容器」ではなく、第29類:「加工野菜」又は第31類:「野菜」であると考えられます。

第35類:「広告業」

この「広告業」は、他人のために商品やサービスなどを広告するサービスを示します。
そのため、一般的には、自分で生産又は販売している商品をSNSやHPなどで広く知られるようにPRをする行為(広告)は、役務「広告業」に該当しないものと考えられています。

第42類:「ウェブサイトの作成又は保守」

上記「広告業」と同様、「ウェブサイトの作成又は保守」は、他人のためにウェブサイトを作成やそれを保守するサービスを示します。

そのため、一般的には、自分の会社や商品のHPページや販売ページを自分で作る行為は、役務「ウェブサイトの作成又は保守」に該当しないものと考えられています。

指定商品・指定役務を調べる方法は?

指定商品・指定役務は、「商標法施行令」、「商標法施行規則」にて規定されています。

商標法関係は時勢に応じてたびたび改正がおこなわれるので、特許庁のホームページにアクセスして最新の改正に対応した商品・役務を調べる必要があります。

商標登録に関するサイトや弁理士事務所のサイトなどでも商品・役務が紹介されていますが、わかりやすく解説するために、ざっくりとまとめられている場合もありますので、注意が必要です。

例えば、指定商品の例として「紙・事務用品 他」などと記載されていても、商標法施行規則の別表を見ると、紙類も「洋紙・板紙・和紙・加工紙」等と細かく分類されており、さらに洋紙も「印刷用紙・インディアンペーパー・カーボン原紙・グラシンペーパー・新聞用紙」等と、非常に細かく指定されています。

大まかに「紙類でいいかな?」と決めてしまうのではなく、登録したい商品のジャンルを厳密に見て、必要な商品が含まれているかを確認して決めることが重要です。

また、特許庁の特許情報プラットフォーム「J-PlatPat」内「商品・役務名検索」を利用すれば、簡単に商品・役務を検索することができます。

なお、「雑貨」、「キャンプ用品」、「電化製品」などの曖昧な商品の表現は、その商品内容を特定できないとして、登録が認められないおそれがありますので、提供する商品・サービスが何に該当するのかを適切に調べることに注意が必要です。

商標登録出願時には、正しい「指定商品・指定役務」を選ぶことが大切です。
少しでもご不安な点がある場合には、弁理士や特許事務所にご相談されることをお勧めします。