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商標とは、自社の商品やサービスを識別する/識別してもらうための標章を指します。
一般的に、商標と言われると、文字や図形の要素を含むものを想像されるかと思いますが、実は、「色彩のみからなる商標」も商標として認められています。
「色彩のみからなる商標」は、平成26年の商標法改正により認められるようになりました。
今回は、この比較的新しい商標「色彩のみからなる商標」について解説いたします。
「色彩のみからなる商標」とは?
「色彩のみからなる商標」とは、一体どのようにして認められる商標なのでしょうか。
色彩ということは、好きな色を好きに独占できるのでしょうか?
いいえ、そうではありません。
「我が社は赤を」「この商品は青を」と容易に商標登録することができる、というものではありません。
色彩のみからなる商標について、特許庁ホームページでは次のように定義されています。
「単色又は複数の色彩の組合せのみからなる商標(これまでの図形等と色彩が結合したものではない商標)(例えば、商品の包装紙や広告用の看板に使用される色彩など)」
(特許庁HP「新しいタイプの商標の保護制度」, https://www.jpo.go.jp/system/trademark/gaiyo/newtype/index.html)
また、「色彩のみからなる商標」には、商品等の特定の位置に色彩を付すものも含まれます。
(下図は、「ゴルフクラブ用バッグのベルトの部分を赤色とする例」)
よって、「色彩のみからなる商標」には、
①単一の色彩からなる色彩のみからなる商標(以下「単色の商標」という。)
②複数の色彩の組合せからなる色彩のみからなる商標(以下「色彩を組み合わせてなる商標」という。)
及び
③商品等における色彩を付する位置を特定した色彩のみからなる商標(以下「位置を特定した色彩のみからなる商標」という。)
の3通りの商標があります。
色彩のみからなる商標が登録を認められるには
平成26年の商標法改正で色彩商標を新しく保護することとした目的は、特徴的な色彩がブランドカラーとして広く認知されているような著名ブランドの保護を強化するためであり、そのような使用実績がない限り、どのような色彩でも保護されるというわけではないことに留意しましょう。
特許庁の審査便覧(審査の公式ガイドライン)には、色彩商標の審査につき、このように記載されています。
「色彩のみからなる商標は、商標審査基準に従い、原則として、商第3条第1項第2号、同項第3号又は同項第6号に該当する。よって、色彩のみからなる商標が登録されるためには、色彩が使用された結果、当該色彩が独立して(図形や文字等と分離して)その商品又は役務の需要者の間で特定の者の出所表示として認識されていることが必要となる。」
(特許庁HP「商標審査便覧-色彩のみからなる商標における
使用による識別力の獲得の証明に関する取扱い」, https://www.jpo.go.jp/system/laws/rule/guideline/trademark/binran/document/index/54_06.pdf)
ここで、商標法第3条第1項第2号、同項第3号又は同項第6号に該当する、とは、商標登録を認めるだけのオリジナリティがない、と判断される、ということを意味します。
よって、色彩のみからなる商標を登録するには、その色彩(色彩の組み合わせを含む)を出願前から実際に使用し続け、その色彩(色彩の組み合わせを含む)を見ただけで、需要者(消費者又は取引業界人のこと。)がどの事業者のブランドカラーなのか判別できることを立証しなければなりません。
最近は、日清食品ホールディングス株式会社の「チキンラーメン」のあの配色が「色彩のみからなる商標」として商標登録されたニュースがありました(下図ご参照)。
これも、あの特徴的な配色がブランドカラーとして老若男女に広く認知されていたことが立証され、登録にいたったと考えられるケースです。
登録第6534071号
過去の登録例は?
商標法改正以後、平成27年に出願された「色彩のみからなる商標」のうち、2年の審査を経て平成29年に2件の色彩のみからなる商標が登録査定に至りました。
1件は株式会社トンボ鉛筆が「MONO消しゴム」に採用している青・白・黒の色彩のみからなる商標(登録第5930334号)、もう1件は株式会社セブン-イレブン・ジャパンが店舗看板などに採用している白・オレンジ・緑・赤の色彩のみからなる商標(登録第5933289号)です。
いずれも全国的に、ブランド・カラーが広く認識されている商標であり、著名ブランドの保護強化という目的を体現しているといえるでしょう。
登録第5930334号
登録第5933289号
上述の2件の「色彩のみからなる商標」の登録は各メディアで大きく取り上げられるなど話題を集めていたことから、登録の成功例として、出願商標がこの2件のレベルに並ぶほど国民的に認知されていなければならないと考えると、「色彩のみからなる商標」の登録査定実現のハードルは相当程度高いものになるでしょう。
「色彩のみからなる商標」の登録ラインは「その色彩を見ただけでどこの・どの商品かが判断できるものに限られる」とされており、また、いかに国民的認知度を誇る企業であっても「赤のみ」などのような「単色の商標」は現在のところ登録実績はなく、特許庁は慎重に審査を進めていると考えられます。
現時点では登録までのハードルが高い「色彩のみからなる商標」ですが、今後の審査を取り巻く状況の変化によっては登録の可能性もあるので、ブランドカラーを押し出す戦略の強い味方となるかもしれません。