目覚ましいAI(人工知能)技術の進歩。ついにAIが絵画を創作するという偉業を達成しましたが知的財産の分野では「AI創作物に知的財産権はあるのか?」という新たな問題に衝突しています。

今回はAIと知的財産の関係性について考えてみます。

 

AIとは?

AIとは『artificial intelligence』の頭文字の略語で、日本語に直訳すると人工知能という意味になります。

IT化が進んだ現代ならではのキーワードのように感じられるかも知れませんが、AIの研究の歴史は意外と古く、最初の登場は1956年にまでさかのぼります。

登場から50年間は、自動計算や一定のプログラムを基軸としたオートメーションに利用されるにとどまり、幾度かの研究の停滞の中には実現不可能だと説く学説を発表する研究者も登場しました。

ところが、2006年にディープラーニング(深層学習)という技術が発表されると飛躍的に性能が上昇し、囲碁や将棋でプロ棋士にAIが勝利したなどのニュースが大々的に報道されるようになりました

これらAIの発展に関する報道には、驚かされた方も多いことでしょう。

最近では自動車の自動運転装置の制御や、スマートフォンの音声認識機能にもディープラーニングを採用したAIが搭載されており、AIが我々の暮らしを豊かにしてくれていることは間違いありません。

 

AIが生み出した著作物の権利は?

2016年、世界中のメディアを驚かせる大きなニュースが発表されました。

世界的に有名なIT企業であるMicrosoft社を中心としたAI開発チームが、17世紀の画家レンブラントの作風をAIに学習させ、3Dプリンターでレンブラントの新作を完成させたというニュースです。

AIにレンブラントの全作品をスキャンデータを学習させ、条件を与えてオリジナルの絵画データを作成させた上で、光の魔術師と謳われたレンブラント特有の油絵具の隆起を3Dプリンターで再現することで、誰がどう見てもレンブラントの新作としか言いようのない絵画が完成しました。

このニュースはAI研究の分野でも大きな話題となり、AI業界では驚きと称賛の声が挙がりましたが、いまだに論争が続いているのが知的財産の分野です。

AIは人ではありません。

では、AIが作ったこの絵画は、知的財産として保護されるのか?という議論です。

この点について、日本政府は、創作物には3つの形態があると示しています。

1つ目は人の創作物で、明らかに著作権によって保護されるべきものです。

2つ目はAIを道具として利用した創作物で、人間が関与している以上は著作権が保護されると考えられます。

問題は3つ目の「AIによる創作物」です。

現行の著作権法に照らせば、著作物とは「思想・感情を創作的に表現したもの」と定義されているため、たとえAIに指示を与えた人間が存在していたとしても、創作したのは思想・感情のないAIであるという事実が揺らぐことはありません。

そのため、AIによる創作物には、著作権が与えられないという見解になります。

今回、研究チームがAIに学習させて完成したレンブラントの新作は、現行法規のままでは著作権が与えられないというのが、現時点での正解となっています。

 

AIと知的財産の関係

知的財産の分野では現在も激しく議論が続いているAIが創作したレンブラントの新作。

ここで表現されたのは絵画ですが、この研究発表によって、今後もAIによる知的財産が産出される可能性が現実味を帯びてきます。

今回AIが創作した絵画や音楽など著作権で保護されるべき創作物のほか、商品デザインをAIが3Dプリンターで作成したものであれば意匠権で保護されるべきといえるでしょう

AIがプログラムを作り出し、そのプログラムがハードウェアを用いて具体的に実現されるのであれば、ソフトウェア特許として特許権が認められるべきでもあります。

現行法では、AIに知的財産を与えることは不可能ですが、このままAIの創作物が全てパブリックドメインとなることは、AIによる創作物を世に送り出す人の意欲と利益を削ぐことになります。

莫大なコストを要するAI研究にとって、成果が称賛のみでは研究が立ち行かなくなるのも事実です。

政府研究チームでは、現行法ではAIによる創作物に知的財産権が与えられないという問題を解決するために、AIによる創作物自体を保護するのではなく「AI創作物を世に広めて一定の価値を生じさせたこと」を保護する方針も検討しています。

研究チームの報告書では、商標や不正競争防止法の商品等表示の保護と類似した仕組みが想定されるとして、AIによる創作物の知的財産権を保護する方策を具体的に明記していることから、AIに関連して近い将来に知的財産に関する法改正がおこなわれる見通しが強まっています。

AIと知的財産の関係については、さらに研究が進めば今回のレンブラントの新作のように様々なモデルケースが創出されることは間違いありません。

知的財産の担当者としては、法改正も含めて、今後も新たな情報を積極的に収集する姿勢を持つ必要があるでしょう。