目次
海外における商標登録の重要性
みなさんは、米国アップル社が中国における「iPad」の商標権で争い、多額の和解金を支払うこととなった事件をご存知でしょうか?
これは、アップル社の主力商品の一つであるiPadについて、中国・台湾ではアップル社に先立って現地法人が商標権を取得しており、商標権侵害でアップル社が訴えられてしまった事件です。
アップル社に先立って「iPad」の商標権を取得していた法人は、実際にはiPadなる商品を販売していた事実はありませんでしたが、中国・台湾においては、商標の使用実績があるか否かは商標権の認定に影響しないため、アップル社は第一審において敗訴し、多額の和解金を支払って商標権を買い取る、という事態が起きてしまったのです。
アップル社のiPad商標権問題のように、海外法人が先立って商標権を取得してしまうと、現地で商品販売を展開しようとした際に賠償金や商標権の買取りに多額の損失を被ってしまうことになります。
そのため、海外へのビジネス展開や海外でのコピー商品の防止を考慮する場合は、国内における出願と同時に海外各国への出願もすることが望ましいと考えられます。
国内と海外で同時に商標権を取得するには?
国内における商標権は国内のみで効力を発揮し、海外には効力が及びません。
そのため、国内だけでなく必要な海外各国に対しても商標登録出願をすることになりますが、海外への出願には主に2つのルートがあります。
ルートその1:各国への直接出願
出願したい各国の代理人に依頼してそれぞれ直接出願する方法で、出願国が少ない場合は低コストになる反面、出願国が多くなると代理人費用が多額になり、コストが高くなるという注意点があります。
また、以下でご説明します「マドリット協定議定書契約国」以外の国や地域へ出願する際には、こちらの直接出願のルートを利用することになります。
ルートその2:国際登録出願
日本の特許庁を窓口に、110の「マドリッド協定議定書」締約国(掲載日時点)に対して同時出願できる方法です。
この「マドリット協定議定書」の締約国には、アメリカ、中国などをはじめとする、多くの日本企業が進出している国が多く含まれています。
そのため、海外への商標登録出願の際に、この国際登録出願の対象となるケースは多いと言えるでしょう。
国際登録出願には、日本国内での商標出願又は商標登録を根拠に、日本特許庁への申請一本で同時出願できる、という利点があります。
一方、国際登録の日から5年以内に、日本国内での商標出願が拒絶された、商標登録が消滅した、又は取り消されたなどの場合には、各国での効力も失われてしまうため、注意が必要です。
EU加盟国へ出願する場合
上記いずれのルートでも「欧州連合商標」(EUTM)の利用ができます。
EUTMは、欧州連合知的財産庁(EUIPO)に出願すれば、欧州連合(EU)加盟国全体に商標登録の効力が及ぶ制度です。
EUTMのメリットとして、EU加盟国全てで個別に出願するのに比べるとはるかに経済的であり、EU全加盟国に出願する際には非常に便利です。
一方、デメリットとしては、EU加盟国のうち1ヵ国でも商標登録が認められない国があると、たとえその他全ての加盟国で登録を認める審査結果がおりていても、「欧州連合商標」(EUTM)の登録は認められません。
この場合は各国ごとの出願に切り替えることができますが、新たに現地代理人費用が必要となりますので、注意が必要です。
まとめ
出願したい対象国の範囲、出願や維持にかかる代理人や手続きにかかるコストなどを総合的に考慮して、海外への出願を検討すると良いでしょう。
海外への商標登録出願をご検討の際には、是非、弁理士や特許事務所へご相談されることをお勧めします。