目次
13億人もの人口を抱える中国の市場が日本企業において重要な位置付けであることは、すでに既知の事実でしょう。
技術力が高い日本企業にとって、強力な生産力と広い市場を持つ中国企業と連携する機会は増えています。
その中で、中国企業との技術ライセンス契約の締結を検討場面もまた多いことでしょう。
ただし、中国企業との技術ライセンス契約を締結する際には、国内または中国以外の諸外国の企業と技術ライセンス契約を締結する場合とは別に、特段の注意点が存在します。
ここでは、中国企業と技術ライセンス契約をおこなう際の注意点を紹介します。
≪ライセンサーは中国独自の法令によって規制を受ける≫
中国企業と技術ライセンス契約をおこなう海外企業は、中国独自の法令によって規制を受けることに留意する必要があります。
中国では『中華人民共和国技術輸出入管理条例』という法令が存在しています。
技術輸出入管理条例は、中国企業にとって有利に働く側面が強く、ライセンシーとなる海外企業が注意を払わないと不利な条件となることが多くあります。
まずは技術輸出入条例の内容について事前に十分に理解し、トラブルを回避しましょう。
≪技術輸出入管理条例による輸入技術の分類≫
技術輸出入管理条例では「技術輸入の分類」がおこなわれていることに注意が必要です。
- 輸入禁止技術
一部の石油化学関連技術、自動車のエンジン製造技術などは、一切の輸入を禁じている
- 輸入制限技術
一部の遺伝子組換え技術、石油化学関連技術、自動車エンジン製造技術などでは、商務部門による許可ないと契約による効力が生じない
- 輸入自由技術
法令による制限なしで自由に輸入が可能である
これらの技術分類は、輸入禁止・輸入制限技術目録にリストアップされており、まずは技術ライセンス契約の対象が法令によって禁止・制限されていないかを確認する必要があります。
この法令で定めるところの「技術」とは、知的財産として権利化されているものだけではなく、単なるノウハウであっても対象となることにも留意しなくてはならないでしょう。
また、輸入制限技術だけでなく、輸入自由技術においても商務部門への登録が要求されます。
非登録であっても処罰などのペナルティがあるわけではありません。
ただし、ロイヤリティの送金などにおいて送金銀行が商標部門への登録の有無を確認することがあるため、実務上は輸入自由技術であっても登録をおこなうべきです。
≪ライセンサーが払うべき注意点≫
技術輸出入管理条例の内容に意識を向けると、中国企業との技術ライセンス契約を結ぶ際にライセンサーが払うべき注意点が見えてきます。
まずは「ロイヤリティの設定」です。
ロイヤリティについては、中国企業側が著しく不利な条件であった場合、商務部門による登録の際に修正を求められることがあります。
また、すでに廃止された制度ではありますが、生産高・売上高に応じてロイヤリティが変動するランニング・ロイヤリティの場合は料率5%を超えてはならないという規定も存在していたため、これを大きく超える両立を設定すると修正を受けやすくなります。
ロイヤリティの設定においては、商務部門の納得が得られるよう説明資料を取り揃えておく必要があるでしょう。
「保証義務の軽減」にも注意を払いたいところです。
技術輸出入管理条例では、ライセンサーに次の保証義務が発生します。
・技術の適法な権利者であることの保証
・第三者の権利を侵害しないことの保証
・技術目標達成に対する保証
対象となる技術について適法な権利者であり技術ライセンス契約も適法なものであることを保証するのは当然でしょう。
また、適法であるとの認識において技術ライセンス契約を締結したのであれば、第三者への権利侵害が発生した場合にライセンサーに責任が生じることも理解できます。
しかし、技術目標の達成については、確実性に欠ける部分は否めません。
なぜなら、中国はいまだにインフラ整備が途上段階にあるため、場合によっては想定したレベルにまで技術を再現できないおそれがあるからです。
これらの保証義務を軽減するためには、契約のドラフト作成段階において賠償額の上限を定めておく、技術目標に対する条件を詳しく設定する、保証期間を限定し想定外の事態が発生した場合には契約を解除できるとの要項を盛り込むなどの対策が有効でしょう。
「改良技術の取り扱い」については中国法の規制に留意する必要があります。
中国では、ライセンシーによる改良技術をライセンサーに帰属させるアサインバック、ライセンシーによる改良技術を無償・独占的にライセンサーにライセンスさせるグラントバックは認められていません。
一方で、有償・中国企業に著しい不利益がないグラントバックは認められています。
最後に挙げておきたいのが「技術指導」です。
中国企業と技術ライセンス契約を締結した場合、技術指導のために技術者を中国に派遣することがありますが、技術指導の期間や人員、技術指導費、滞在費などは詳しく決めて契約内容に盛り込んでおきましょう。
あわせて読みたい