キャラクターは、コンテンツやブランドの世界観や価値観を体現する“象徴”として、近年ますます重要な知的財産になりつつあります。
とりわけ近年では、エンタメ領域に限らず、企業や事業活動の一環として創作されたキャラクターが、製品・サービスの訴求や企業イメージの形成に活用されるケースも増えています。

しかしその一方で、キャラクターの保護手段については「著作権があるから大丈夫」と考え、商標による適切な保護が見過ごされているケースも少なくありません。
また、キャラクターの商標的な保護においては、「何を」「どの範囲で」「どのように」登録すべきかの判断が必要であり、これは実務上でも意外と難しいテーマです。

本記事では、キャラクターに関連する商標登録の基本的な考え方から、登録対象・範囲の検討ポイント、さらに実務で注意すべき事項までを、以下で整理していきます。

そもそもキャラクターって商標登録するべき?

「キャラクターには著作権があるから、商標登録までは不要」と考える方もいるかもしれません。
しかし、著作権による保護のみでは十分とはいえない場合があります。

前提として、著作権侵害を主張するには、他人の作品が自身の著作権の対象となる作品(著作物)に「依拠して創作された」こと(=依拠性)と、「著作物が類似している」こと(=類似性)の両方について、侵害を主張する側(つまり著作権者側)が自ら立証する必要があります。
また、著作権というのは、特許庁での審査を経て設定登録を受ける商標権や特許権などと異なり、特許庁や文化庁への申請などを行って発生させるのではなく、創作物が完成すると同時に自然に発生する観念性の強い権利です。
そのため、著作権という権利は、第三者からすれば、誰が著作権者で、いつその権利が生じたのかが不明確なものといえます。

よって、とくに依拠性については、客観的に「他人が自作品にアクセス可能な状態にあった」ことを立証しなければならず、人気が出ていないキャラクターやマイナーな展開しかしていないものでは、証明が困難となるケースも少なくありません。

これに対して商標権は、特許庁で設定登録された商標の使用に対して、指定した商品・サービス内で排他的な権利を与える明確な権利です。
つまり、誰かが似たようなキャラクターを使用して、指定商品等に係る商業活動を行った場合には、元のキャラクターに依拠しているかにかかわりなく、積極的に使用の差し止めや損害賠償を請求することが可能になります。

このように、キャラクターを知的財産として保護しようと考える場合には、著作権では不十分な場合が多いため、著作権のみに頼るのではなく、商標登録も積極的に検討する必要があるといえるでしょう。

商標権と著作権以外にキャラクターを保護する手段はある?

キャラクターを保護する権利として代表的なものは、商標権と著作権ですが、その他にもキャラクターの保護に関する手段があります。それは、以下の2つです。

(1) 意匠権

意匠権とは、「美感を有する物品等の形状やデザインを排他独占的に保護する権利」、つまり“物のデザインを保護する権利”のことです。
商標権や特許権と同様に、特許庁の審査を経て設定登録を受けるものとなります。

意匠登録を受けると、これと似ている物品デザインを実施している他者に対して、意匠権を行使することで、使用の差し止めや損害賠償等を請求することが可能になります。

ただし、意匠登録を受けるためには、新規性(客観的に新しいデザインであること)と、創作非容易性(既存のデザインに基づいて容易に創作できるものではないこと)を満たすことが重要です。
もしキャラクターが既に一般的に公開されているようなものですと、例えば、Tシャツにキャラクター絵柄をプリントしたデザインなど、単にキャラクターデザインを転用しただけの意匠では、上記2つの要件(成立条件)を満たすのは難しいでしょう。

また、意匠登録は、物品ごとに行う必要があります。
つまり、ティーシャツやタオル、メガネ、ぬいぐるみ、マグカップなどキャラクターデザインを使用して多種多様なグッズを展開していく場合、1製品ごとに意匠出願をする必要が出てしまうため、単純なキャラクターデザインを転用した製品ばかりですと、費用対効果が低くなってしまうおそれがあることに注意する必要があります。

(2) 不正競争防止法

不正競争防止法には、民事責任・刑事責任又はその両方の対象となる不正競争行為が列挙されています。
この不正競争行為のうち、キャラクターの保護の点では、キャラクターなどの周知・著名な商品等表示を保護する①周知表示等混同惹起行為(不競2条1項1号)、②著名表示冒用行為(同項2号)や、他社による商品の形状やデザインの模倣から保護する③商品形態模倣行為(同項3号)が主として挙げられます。

①②については、自社のキャラクターが有名なものとなっているとき、それを勝手に他者が使用したり、似ているキャラクターを使用することで、需要者の混同を招くようなことをしたりすると、これは不正競争行為となるため、不正競争防止法違反を理由に、使用の差し止めや、受けた損害の賠償を請求することが可能です。
また、自社で開発したキャラクターグッズが他社に模倣されてしまった場合には、不正競争行為の1つである③商品形態模倣行為に該当する可能性があり、この場合も、相手方へ使用差し止め等を請求できる場合があります。

しかし、不正競争防止法違反を主張するためには、キャラクターが高度な周知性(認知度)を有している必要があることや、日本国内において最初に販売された日から起算して三年以内の商品であることなど、不正競争行為によって異なる高度な要件が求められる場合があります。

また、相手方の行為が不正競争行為に該当することの証明は、基本的にすべて原告側で行う必要があるため、著作権侵害と同様に、侵害立証のハードルが高いというデメリットがあります。

そのため、不正競争防止法によってキャラクターの保護を主張するというのは、他に有効な手立てがない場合における最後の手段となることが多いでしょう。

キャラクターを考案したとき、何を登録の対象にするべき?

(1) キャラクターの絵柄

キャラクターは、事業やコンテンツで使用される際に、さまざまなポーズ・表情・コスチュームで展開されることが一般的です。

商標法上、登録商標の効力は「その商標に類似する範囲」にまで及ぶとされていますが、通常、絵柄(図形・デザイン)商標の類否判断は視覚的要素のみに基づくため、類似範囲が比較的狭くなる傾向があります。
したがって、使用するすべてのポーズ・バリエーションごとに商標登録を受けるのが理想です。
ただし、商標制度上は「一商標一出願」が原則であるため、バリエーションごとに出願を行うと、出願件数に応じたコストの増大が避けられません。

このため、現実的には、展開するキャラクターごとに、「最も基本的・代表的なポーズ」(基本形)で出願登録を受けるという選択肢が取られることが多く、キャラクターの使用態様や有名度、展開状況、費用対効果を見ながら出願対象を検討するのが実務上の対応となっています。

(2) キャラクターの名称

キャラクターに固有の名称がある場合は、それ自体を文字商標として別途登録することが推奨されます。
キャラクターの名称そのものも商品やサービスの出所表示となる場合があるため、これも絵柄とは別に登録して保護しておくのが良いでしょう。

また、「ハローキティ」のように、後に外国での展開も意識する場合には、キャラクターの日本語名だけでなく、英字表記(HELLO KITTY)も別に登録することも一案です。

キャラクター絵柄と名称を合わせて1件の商標として登録することもできる?

絵柄の下に名称を付すなどして、名称と絵柄を組み合わせたものを1件の商標として出願することも、制度上は可能です。
このように登録を受けることで、1件分のコストに抑えることができるのがメリットです。

ただし、この場合は、名称部分と絵柄部分で1つの商標権となるため、登録を受けたこの態様で使用していないと、他社から登録商標の不使用による商標権の取消審判請求の対象とされてしまうおそれがあります。
また、前述のとおり、この場合は、名称部分と絵柄部分で1つの商標権となるため、各部分を保護する商標的な効力は相対的に弱ってしまうことに注意する必要があります。

実際に、近年の特許庁の審判事件(下記不服2019-14183及び不服2019-17513)では、キャラクターの絵柄+名称の組み合わせで登録された商標と、後から名称だけを出願した他社商標が「非類似」と判断され、併存して登録が認められた例があります。

つまり、自社が「絵柄+名称」で1件として登録していた場合、他社が同じ名称を単独で出願して登録されてしまう可能性があるということです。
これは、(登録した商標と同一の「絵柄+名称」の態様ではなく、)キャラクターの名称のみを単独で使用していたときには、他社の商標権の侵害となるリスクがあることを意味します。
このような事態を避けるためにも、絵柄と名称を分けて別個に登録しておくのが安全な選択といえるでしょう。

どの範囲で登録を受けるべきか?

商標出願においては、商標の使用対象となる「商品・サービス(役務)」と、それに対応する「区分(類)」を指定する必要があります。
これは、商標の保護効力が「指定商品・役務の範囲内」に限定されることを意味しています。

「キャラクターそのもの」を保護するための区分は存在しないため、キャラクターが使用される具体的な商品やサービスに応じて適切な区分と商品・役務を選ぶことが重要です。
また、キャラクターの性質や用途によっても商品・役務の選定の考え方が少し異なります。

(1) キャラクタービジネス(コンテンツ)として展開するキャラクターの場合

※各キャラクター画像は、特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)より引用しています。

このタイプのキャラクターは、主にキャラクターグッズ、アニメ、イベント展開などコンテンツ主体のビジネス展開が想定されます。
よって、キャラクターを使用して実際に展開することが想定される商品やサービスを指定して出願登録するのが良いでしょう。

参考までに、キャラクタービジネスとして展開されるキャラクター商標において、指定されることが多い主要な区分と商品・役務には、以下のようなものがあります。

主な指定商品・役務の参考:

<商品(グッズ)>

  • 第9類:インターネットを利用して受信及び保存することができる画像ファイル,スマートフォン用のケース,電子出版物,録音済み又は録画済みCD・DVD など
  • 第14類:キーホルダー,宝飾品類,身飾品(アクセサリー),時計 など
  • 第16類:文房具類,シール,ステッカー,ポスター,カレンダー,書籍,写真,絵画 など
  • 第18類:かばん類,袋物,携帯用化粧道具入れ,傘,ペット用被服類 など
  • 第21類:マグカップ,食器類,清掃用具,化粧用具,花瓶 など
  • 第24類:ハンカチ,タオル,毛布,織物製のテーブルマット,織物製コースター など
  • 第25類:ティーシャツ,被服,靴類,ベルト,仮装用衣服 など
  • 第26類:ヘアゴム,髪飾り,ワッペン,装飾用バッジ など
  • 第28類:ぬいぐるみ,おもちゃ,フィギュア,ゲーム用具 など

<役務(サービス)>

  • 第41類:娯楽イベントの企画・運営,映画・演芸・演劇又は音楽の演奏の興行の企画又は運営,インターネットによるキャラクターの画像・映像・音声の提供,娯楽の提供,オンラインによるゲームの提供 など
  • 第43類:飲食物の提供

(2) 企業や事業に関連付けられたキャラクターの場合

例:のるるん(鉄道)、ハッピーワオン(電子マネー)、ぴちょんくん(エアコン)、キョロちゃん(チョコレート菓子) など

※各キャラクター画像は、特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)より引用しています。

これらは企業や商品・サービスを象徴するキャラクターであり、キャラクターが当該企業等で提供されている商品・サービスに直接結び付いていることが多いです。
よって、このような場合には、その事業に係る商品や役務を指定して出願登録するのが良いでしょう。

したがって、上記例の事業に係るキャラクターの場合には、例えば、以下のような指定が考えられます。

  • 第39類「鉄道による輸送」等 (のるるんの場合)
  • 第36類「支払代金の電子決済」等 (ハッピーワオンの場合)
  • 第11類「暖冷房装置」 (ぴちょんくんの場合)
  • 第30類「チョコレート菓子」(キョロちゃんの場合)

また、最近では企業キャラクターも、コンテンツとして転用され、グッズ化されることが増えています(例えば「Suicaのペンギン」など)。
企業キャラクターがコンテンツ的側面を持つ場合は、展開が想定される(1)で挙げたような商品・役務も併せて登録するのが望ましいでしょう。

おわりに

キャラクターは、単なる装飾的な存在ではなく、商品やサービスの印象形成に大きな影響を与える重要な知的財産です。
とくに近年では、企業や事業活動においてキャラクターをブランド戦略の一環として活用する動きが活発化しており、その保護の重要性が増しています。

しかし、その一方で、キャラクターの権利保護を十分に行っていないがために、模倣被害に遭ったり、思わぬトラブルに発展したりするケースも少なくありません。
キャラクターの保護には著作権や不正競争防止法など、さまざまな法律が関与します。
しかし、これらの法律による保護だけでは限界があるのが現実です。

商標登録は、明確かつ排他的な権利として位置付けられるため、実務上の第一選択肢として、ぜひ積極的に検討されるべきでしょう。

「何を登録するか」「どの商品・サービスを指定するか」といった登録戦略は、キャラクターの使用形態や展開計画によって大きく異なります。
適切な保護を得るためにも、出願前にしっかりと方針を整理することが重要といえます。

キャラクターの商標登録においてお困りの点がありましたら、ぜひご相談ください。
適切な権利の取得と活用を通じて、貴社のブランド価値をしっかりと守ることができるでしょう。