2018年、日本の特許庁は「標準必須特許のライセンス交渉に関する手引き」を作成・公表しました。

スマートフォンに代表されるように、いくつもの特許技術によって構成される機器などは、開発のために必須となる特許が存在します。

そこで整備されたのが標準必須特許です。

ここでは標準必須特許の概要と活用方法について解説します。

 

≪標準必須特許とは?≫

標準必須特許とは、技術標準を満たすためには実施が必須となる発明をクレームする特許を指します。

技術標準とは、製品・材料・工程などについて定義された基準のことです。

標準必須特許を説明するのにもっともわかりやすいのがスマートフォンでしょう。

スマートフォンは、1台当たりの価格の30%が特許使用料だといわれるくらい数多くの特許技術によって支えられています。

そのため「これはスマートフォンだ」と呼べるためには、実施が避けられず代替技術もない特許が数多く存在します。

もし、この特許をある一社が独占してしまうと、スマートフォンはある一社からしか販売できない事態になるでしょう。

または、ある一社がほかの企業に対して法外なライセンス料を要求し、事実上の独占を貫くか、もしくは莫大な利益を搾取することになります。

これがいわゆる「ホールドアップ問題」です。

ホールドアップ問題を解消するため、技術標準を必要とする分野では標準化組織が結成され、標準必須特許と認められた場合はその特許に関するライセンス条件の宣言が求められています。

ここでいう「ライセンス条件の宣言」は、ライセンスを望む企業に対しては公平・合理的・非差別的なロイヤリティでライセンスを認めるものとなります。

これがFRAND(Fair,Reasonable,And Non-Discriminatory)と呼ばれる考え方です。

 

≪スマートフォン開発にみる標準必須特許の活用≫

標準必須特許の権利行使については、訴訟に発展するケースが多くありますが、FRAND条件のとらえ方次第で結果に大きな差が生じています。

スマートフォン開発において対照的な差があるのがappleとSamsungです。

AppleはFRANDに対して寛容であり、SamsungはFRANDに対して反対的な立場をとっていました。

この意識の差が訴訟の結果に影響しています。

まず東京地裁では、appleによるSamsung特許の侵害を認める判決を下しましたが。FRANDに基づいて権利濫用であると評価され、Samsungによる損害賠償請求は認められませんでした。

同じく米国では、やはりappleによるSamsung特許の侵害が認められましたが、appleに対する輸入差し止めについて米国大統領による拒否権を発動するに至りました。

欧州委員会においても、appleがSamsungにFRAND条件でライセンスを求めていた事実を評価し、複数国で差し止め請求を起こしていたSamsungは権利濫用を犯しているとして異議通告書を達する事態になりました。

これらの評価をみるに、AppleはFRANDに対して寛容な立場を貫くことで世界各国からの指示を得ているといえます。

反対にSamsungはFRANDを認めないことで、非難を浴びるだけでなく訴訟でも不利な結果を受けています。

つまり、標準必須特許に該当する特許を保有している企業は、その特許のライセンスのみによって利益を得ようとするのではなく、FRANDを受け入れて業界内で友好的な立場を維持するほうが賢明だといえます。

標準必須特許を保有する場合、他の独占的な手法でビジネスに活用するのではなく、業界内での地位を良好に保ち、他の企業が保有する標準必須特許に対してFRAND条件を求める際の武器として利用するべきなのです。

 

≪標準必須特許の活用法のアドバイスなら特許事務所に相談≫

冒頭にあるとおり、日本特許庁は標準必須特許に対する整備に乗り出しています。

異業種間のライセンス交渉が増加している昨今では、特許の必須性、ライセンス料の相場観、ライセンス交渉の態様などに差があるため、従来のクロスライセンス契約のみでは解決が図れない事態になっているのです。

「標準必須特許のライセンス交渉に関する手引き」によると、特許の標準必須性を判断する場合、公平・中立な立場を貫く特許庁が判定をおこなうことによって解決を図る運用が定められました。

標準必須特許に該当する特許権を保有している、または他社の特許について標準必須特許であるためFRAND条件でのライセンス契約を求める際は、特許事務所に相談してアドバイスを受けるのが得策です。

自社が保有する特許が標準必須特許に該当するものであれば、Samsungの例を教訓に業界内での不利な扱いを受けないための活用法を見い出す必要があります。

また、自社が製品を開発するにあたって、他社の特許を標準必須特許であると認めてもらいFRAND条件でライセンス契約を求めることは経済的にも大きな意味を持つでしょう。

どちらにしても非常に高度な判断や複雑な請求を伴うため、知的財産のプロである弁理士にアドバイスを受けて、手続きに関するサポートを受けるのがベストです。