他社による特許権侵害を認知すれば、すぐさま対策を講じようとするのは当然です。

特許権侵害を認知してまず行うことといえば警告書の送付でしょう。

警告書を発出して、こちらには毅然とした対応を行う意思があることを示せば、相手も侵害行為を中止すると期待したいところです。

ところが、安易に警告書を発出してしまうと思わず足元をすくわれることにもなります。

特許権侵害に関する警告書を送る際に注意すべきポイントを解説していきます。

 

≪ポイント①  事前調査を徹底する≫

特許権侵害の警告書を送付する前に、本当にそれが特許権侵害に該当するのかを判断する必要があります。

そのためには事前調査の徹底が不可欠でしょう。

警告書を送付する前の事前調査では、まず自社の特許発明と他社の製品を比較することになります。

形状や実施にかかるプロセスが類似しているだけでは足りず、明細書に記載の各請求項ごとにわけてそれぞれを分解比較することで、侵害となるか否かを検証しなくてはなりません。

簡単そうに聞こえるかもしれませんが、実はこのプロセスは容易ではありません。

検証は徹底的におこなわれるべきであり、時間がかかることは必至です。

また、比較対象である他社製品自体の入手が困難であるケースも考えられます。

自社の知財担当者だけでなく、その分野に明るい弁理士や技術担当者を集めたチームで調査・分析をおこなうべきでしょう。

 

≪ポイント②  自社特許に無効理由がないかを検討する≫

警告書を送付する前に、自社特許に無効理由が存在しないかも併せて検討しておく必要があります。

特許権侵害を訴えた場合、相手が無効理由を訴えて抵抗することも十分に考えられるからです。

無効理由に該当する主なケースは、新規性の欠如または進歩性の欠如です。

出願前から公知のものだった発明や広く公然と実施されていた発明は、新規性がないため無効となります。

また、公知・既知の発明でなくても、その分野の技術者であれば従来技術によって容易に到達できたであろう発明は進歩性が認められずこれも無効となることがあります。

 

≪ポイント③  方向性を十分に検討する≫

警告書を発出する前に、どのような決着を望むのかの方向性を十分に検討しておく必要があります。

実務的にも「まずは警告書を」という流れは一般的ではありますが、訴訟ありきの対処を考えるのであれば事前に警告書を送付する必要もないでしょう。

また、警告書を送付したのちに、相手に対してどのような対処を求めるのかは明確にしておく必要があります。

特許の実施を中止するよう求めるのは当然ですが、賠償金の支払いを求めるのか、それともライセンス契約を結ぶ準備があるのかも示しておくべきでしょう。

もし賠償を求めるとすれば、相手の支払い能力も調査のうえで把握しておく必要があります。

相手のビジネスにとって有益な特許であれば、相手はライセンス契約を望むだろうし、相手の事業規模に対する比重が軽い特許の場合は訴訟による問題の長期化よりも早期の和解を求める可能性もあります。

 

≪ポイント④  相手の取引先などには送付しない≫

警告書を送付する大目的として、侵害特許の実施を抑止することが挙げられます。

そこで、実効が期待できる行為として、侵害が発生している事実を相手方の取引先などに知らせるといった方法を考えるかもしれません。

たしかに「A社は当社の特許権を侵害している」とA社の取引先などにしらせれば、A社は信頼回復のため、または事態収束のために自社が望む方向へと意思を傾けるかもしれません。

しかし、この行為は不正競争防止法第2条(15)において禁止されている営業誹謗行為に該当するおそれがあります。

営業誹謗行為とは、競争関係にある他社の営業上の信用を害する虚偽の事実を告知・流布する行為を指します。

「虚偽の事実」とは単にウソの情報を流すことを意味するのではなく、自社の権利が正しく存在すると信じていながら実際は無効であったなどの場合も該当します。

ポイント②で挙げたように、訴訟の経過で実は自社の特許に無効理由が存在していたことを知ったというケースでも該当してしまうため、思わぬしっぺ返しを受ける危険があるのです。

近年の判例では過失が認められるケースも散見されますが、すべてのケースにおいて「虚偽になるとは思っていなかった」という過失が認められるわけではありません。

いたずらに事態を拡散させることは自社の首を締めるおそれがあるため、相手の取引先などには警告書や侵害事実を知らせる内容の文書を送付することは厳に慎むべきでしょう。

 

≪ポイント⑤  自社だけの判断で送付しない≫

 

ここまで④つのポイントをみてきましたが、①と②は特許権と当該技術分野に関する専門的な知識が必要です。

また、③と④に関しても、専門家のアドバイスなしでは自社が損をする結果となるおそれがあります。

特許権侵害の警告をおこなうには、自社の知財担当者による判断だけでなく、知的財産に深い知見と経験を持つ弁理士の助力やアドバイスが必須です。

警告書は自社だけの判断で送付するのではなく、特許事務所に相談したうえで、どのような形で警告をおこなうのかや警告をおこなったあとのプランニングなどのアドバイスを受けてから判断するべきなのです。