海外でブランドを展開するとき、商標は「登録した国でのみ有効」(属地主義)というのが大原則です。
この前提を踏まえずにライセンス契約を結ぶと、国によっては使いたい名称が使えなかったり権利行使ができなかったり、といった深刻なボトルネックに直面します。

本記事では、外国子会社等へ登録商標を使用させる際に、確認を行うべき点をご紹介します。

属地主義の確認

商標権は国ごとに独立しています。
日本で登録しても、海外では自動的に権利が及ぶわけではありません。この仕組みを「属地主義」といいます。
つまり、海外でビジネスを展開する場合は、各国で商標登録を行って初めて権利が発生します。

各国での出願及び管理が大事

実際に、海外で同名商標が既に登録されていたために、ブランド名を変更せざるを得なかった事例は複数あります。

(例)
National」:米国では商標が使えず、ブランド名は「Panasonic」に統一されました。
Burger King」:オーストラリアでは既に同名の商標が存在し、「Hungry Jack’s」として展開しました。
無印良品」:中国で、タオル類の区分(カテゴリー)においては既に同名の商標が存在しており、訴訟にまで発展しました。
Ugg」:オーストラリアでは、「Ugg」が靴のスタイルを表す一般用語であるため、文字商標としては商標登録ができませんでした。

このように、国によってはブランド名そのものが使えないことがあります。
したがって、海外展開を見据えた段階で、早期に対象国での商標出願と登録を行うことが極めて重要です。

また実務上、「主要販売国で商標を統一して使いたい」というご要望をよく伺います。
しかし、同一名称を複数国で使おうとすれば、希望国で既に、第三者がその名称を商標登録しているケースが常に潜んでいます。
もし先行商標を調べずに使用を始めると、他人の商標権を侵害してしまうリスクがあります。

したがって、販売を予定する各国・地域ごとに商標調査を実施し、必要であれば出願しておくことが、安全かつ継続的に事業を進めるために不可欠です。
早期段階で現地の権利状況を把握しておくことで、ブランドの統一性を守りつつ、法的トラブルを未然に防止できます。

そして、各国においても、日本と同様に「不使用取消審判」の制度を設けている国があります。
これは、登録後に一定期間(多くの国では3年又は5年)実際に商標を使用していない場合に、第三者の請求により登録が取り消される、という制度です。

たとえ外国で商標登録ができたとしても、登録して終わりではありません。
仮に不使用取消審判が請求されてしまった際に、焦らず使用証拠を提出できるように、 現地での販売や広告など、「実際の使用」を裏づける証拠を日頃から管理・保存しておくことが重要です。
また、近いうちに商標を使用する予定がある場合でも、現地の事業開始時期や許認可手続の進行状況などを見越して、出願時期や使用開始の計画を立てておくことも大切です。

例えば、大手家具ブランドの「IKEA」は、インドネシアで商標登録を行ったものの、店舗展開に必要な許認可の遅れなどの事情から実際の使用開始が遅れ、 登録後3年間の使用実績を提出できず、登録商標が取り消されました

上記の事例は、いかに世界的な企業であっても、各国の商標制度を軽視すると権利を維持できないことを象徴しています。

このように、商標は「早く出願して権利を取る」だけでなく、現地での事業計画と整合した形で出願・使用を進めること、そして登録後も使用を継続し、それを証明できる体制を整えておくことが、海外ビジネスを安全に進めるうえで欠かせません。

取引先や現地代理店に商標を使わせるときのポイント

海外展開では、現地法人や販売代理店に商標を使用させる機会が増えます。
しかし、ここでの管理を誤ると、自社ブランドの信用を損なったり、最悪の場合は他社に権利を奪われたりするおそれがあります。
実際、海外では代理店が自社の知らない間に商標を現地で出願し、ブランドの“乗っ取り“に発展したケースも少なくありません。

主な注意ポイントは下記のとおりです。

商標の使い方を統一する

登録商標のロゴ・色・フォント・比率・画質などを、取引先の判断で勝手に変えさせないようにします。
たとえば、ロゴの縦横比を変えたり、背景色をアレンジして使用したりすると、商標の一貫性が損なわれ、ブランドイメージの毀損にもつながります。
→契約書やブランドガイドラインで「商標使用マニュアル」を定め、承認制にしておくのが効果的です。

使用範囲を明確に伝える

登録された指定商品・役務以外での使用を禁止し、取引先が勝手に他の製品カテゴリーで商標を使わないようにします。
→「この製品だけ」「この地域だけ」など、使用範囲を限定する条項を契約に明記しておくことが重要です。

生産地限定条項を伝える

ブランドの品質やイメージを維持するためには、製造を行う地域を限定する「生産地限定条項」を設けておくことも有効です。
たとえば、フレッドペリー事件で問題となったように、許可なく他国で生産された商品が流通すると、品質管理の統一が崩れ、ブランド価値の毀損につながるおそれがあります。
→契約書で「製造地」「製造委託先」「検品体制」などを明確に定め、商標使用と同様に本社の承認を得る運用にしておくのが望ましいです。

品質管理を行う

代理店や製造委託先が本社のブランド名で商品を提供する場合、品質の維持・一貫性の確保は極めて重要です。
品質管理を怠ると、現地での粗悪品や仕様の異なる商品が出回り、ブランド全体の信用を損なうおそれがあります。

権利者の明示を徹底する

現地での広告・パッケージ・ウェブサイトなどには、商標の権利者が誰であるかを明記させましょう。
クレジットを義務付けておくことで、需要者が自社の商標を他社のものと誤認混同するリスクを減らせます。

無断出願を禁止させる

代理店・取引先による商標の無断出願禁止を明文化しておきましょう。
万が一出願・登録された場合には、直ちに名義を移転する義務を定めておくことで リスクを回避できる場合があります。

使用報告・監査の仕組みをつくる

月次/四半期を目安に、使用状況・販売・広告実績を報告させ、本社に監査権を付与することにより、不使用取消対策の証拠保存にも活用できます。

こうした基本を怠ると、現地で第三者に商標を登録されてしまったり、取引先が自社ブランドを勝手に派生展開したりする事態にもなりかねません。

海外ライセンス契約でのポイント

商標を海外の代理店やパートナーに使用させる場合には、商標管理上のルール整備に加えて、契約上の取り決めを明確にしておくことが欠かせません。
商標の帰属や使用範囲、契約終了後の取扱いを曖昧にしたり、「口約束」のまま取引を続けたりすると、思わぬ商標トラブルに発展するおそれがあります。

特に注意が必要なのが、販売代理店契約と商標使用の関係です。
販売代理店契約は、あくまで商品を販売するための取引条件を定めた契約であり、必ずしも商標の使用を許諾する契約ではありません。
つまり、販売代理店契約を締結しただけでは、代理店がそのブランド名やロゴマークを商標として使用する法的な権限を自動的に与えられるというわけではないということです。

そのため、代理店が広告やパッケージなどで商標を使用する場合には、別途「商標使用許諾契約(ライセンス契約)」を締結するか、販売代理店契約の中で「商標の使用範囲」や「使用目的」「権利者の明示方法」などを明確に定めておく必要があります。
こうした規定を設けずに取引条件だけを取り決めてしまうと、後に「商標を勝手に出願された」「契約終了後も商標を使われた」といったトラブルに発展するおそれがあります。

このように、たとえ当初の取引関係が良好でも、商標をどのように使用・管理するかを契約で明確にしていなければ、権利を失うリスクがあります。

本社が主体となってブランドを守る

海外での商標トラブルの多くは、「管理の分散」が原因です。
取引先に商標を使わせるということは、ブランドの一部を委ねる行為となるため、現地法人や代理店に任せきりにせず、商標の出願・更新・ライセンス管理は本社主導で行うことが鉄則です。
信頼関係だけに頼らず、契約と運用ルールの両面でコントロールすることが何よりも重要となります。

ここで、本社が商標を管理するというのは、単なる“事務作業”ではなく、ブランド経営の一部です。
国や代理店ごとにバラつきが出れば、消費者の信頼やブランドの一貫性が崩れます。

海外展開を進める際は、「出願・登録・使用・監査」をすべて本社主導のフレームワークで運用することが、ブランドを長期的に守る最善策です。

【ポイント】ここだけは押さえて!

商標は、海外では「国ごとに別の権利」として扱われます。
国内の感覚のまま海外でブランドを展開すると、思わぬトラブルや権利喪失につながりかねません。

  • 各国での商標調査・出願
  • 契約における権利・使用範囲の明確化
  • 本社主導のブランド管理

を早めに整え、トラブルを防ぎましょう。

少しでもわからないことがある場合には、弁理士や特許事務所のプロにお願いすることをお勧めします。