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商標出願においては、単に「名前を先取りする」だけでなく、その商標を実際に使用する意思があることが前提とされています。
しかし、この「使用意思」が軽視されると、出願の過程で補正や宣誓書提出を求められたり、場合によっては出願が拒絶されたりすることもあります。
本記事では、日本の商標法における「使用意思」の基本的な考え方から、使用意思宣誓書が必要となる場面、そして拒絶理由となる主な典型例までを整理します。
使用意思とは?
使用意思を規定した商標法第3条第1項柱書では次のように規定されています。
「自己の業務に係る商品又は役務について使用をする商標については、次に掲げる商標を除き、商標登録を受けることができる。」
「使用をしている商標」ではなく、「使用をする商標」と表現されていることからもわかるように、日本の商標制度では、出願時に商標を実際に使用している必要はなく、将来的に使用する意思があれば足りるという意味です。
そのため、新規事業やブランド立ち上げ段階であっても、使用開始前に商標出願を行うことが可能です。
もっとも、「使用意思」が形式的に疑われるケースでは、特許庁の審査で説明や対応を求められることがあります。
適切に対応できなければ、登録に至らないリスクもあるため注意が必要です。
使用意思の証明が求められるケース
商標出願は使用意思があることを前提に行っているため、特許庁の審査運用上、原則は出願人の使用意思を個別に確認するようなことはありません。
しかし、特に以下のような場合には、形式的に「本当に使用するのか?」と前提となる使用意思に疑義がかけられることがあります。
この疑義がかけられると、商標法第3条第1項柱書の規定に反するとして、審査官より拒絶理由通知がされることとなり、これを解消できない場合には、拒絶の対象となってしまいます。
(1) 1区分内で類似群コードが23個以上含まれている場合
類似群コードとは、商品・役務のグルーピング(類似する範囲)を示す、商標審査実務上用いられる5桁のコード(35A01や04C01など)です。
基本的に商品・役務ごとに1個以上の類似群コードが割り当てられています。
1区分(類)の中で、あまりに広範囲に商品・役務を指定すると、それに伴って類似群コードの個数も多くなってしまう場合があります。
そして、類似群コードの数が23個以上になると、審査官は出願商標の使用意思の有無について合理的疑義があるものとして、拒絶理由通知を発送することになります。
いたずらに指定する商品・役務を広げてしまうと、使用意思に欠けると判断されやすくなるため、必要な範囲を見極めて出願を行うことが重要といえるでしょう。
なお、類似群コードについては、特許庁の「類似商品・役務審査基準(2025年版)」や、特許情報プラットフォーム(J-PlatPat)の「商品・役務名検索」から確認することができます。
もし不安であれば、これらのサイトで事前に確認しておくことを推奨します。
(2) 第35類の小売・卸売役務において、複数の小売等役務の類似群コードが含まれる場合
第35類には、商品の小売業や卸売業に係るサービスが含まれます。
商標を使用して商品の小売・卸売サービスを提供する場合には、第35類を指定区分として、小売等で扱う商品を明確にした役務名を指定して出願を行う必要があります。
そして、この小売・卸売役務を指定する際に、「35K02」のような35Kからはじまる特定小売等役務の類似群コードが割り当てられます。
このとき、原則2個以上含まれる場合には、使用意思の有無について合理的疑義があるものとして、拒絶理由通知が発送されることになります。
例えば、さまざまなメーカーから取り寄せた家具を小売販売する店舗名の商標を登録しようとする場合には、第35類「家具の小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」(類似群コード:20A01 35K06)という特定小売役務を指定することになります。
この指定役務だけであれば、使用意思を理由とした拒絶理由通知を受けることはありません。
しかし、この事業者は家具の他にも、同じ商標を使用して洋服を小売販売していたとします。
この場合、洋服の小売サービスに係る事業も商標権の権利範囲とするため、「被服の小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」(類似群コード:17A01 17A02 17A03 17A04 17A07 35K02)も合わせて指定しておく必要があります。
そうすると、第35類において、家具の小売と被服の小売の2つの役務を指定することになり、特定小売等役務の類似群コードとしては35K06と35K02の2つになるため、形式的に使用意思を欠くと判断されて、拒絶理由通知を受けることになります。
つまり、上記(1)(2)はいずれの場合も、広い範囲で権利を求めようとする出願となるため、このような場合には、特許庁としても、「本当にこの商品・役務に商標を使用するのか?」と出願人の使用意思を疑わざるを得なくなってしまうということです。
ただし、このような拒絶理由通知を受けた場合でも、①補正によって指定商品・役務を適当な範囲に減縮することや、②(まだ商標を使用していない場合には)「使用意思宣誓書」と「事業計画書」を提出して、具体的な使用の予定を明らかにし、使用意思があることを立証することで、当拒絶理由を解消することが可能です。
そのため、広い範囲で権利を求めることを理由とする使用意思の拒絶理由は、適当な対応をすることで解消できる可能性が高いため、拒絶理由通知書を受領しただけで登録を断念しないようにしましょう。
◆総合小売等役務について
「被服の小売」など特定の商品を小売する役務(特定小売等役務)とは別に、総合商社や百貨店、総合スーパーなどが提供するような、衣・食・住にわたり各種商品を一括して扱う小売や卸売をするサービスである「衣料品・飲食料品及び生活用品に係る各種商品を一括して取り扱う小売又は卸売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」(総合小売等役務)というのも存在します。
この役務の類似群コードは「35K01」の1つだけですが、総合小売等役務という広範囲に商品を取り扱うという性質上、この指定役務1つのみであっても、使用意思の拒絶理由が通知される可能性があります。
また、意見書で使用意思に係る書類を提出した場合であっても、審査官は依然として疑義が残るとして、証明書類の追加提出を求める場合があり、これに対しても適切に応じることができないと、拒絶査定となってしまいます。
つまり、総合小売等役務は、他の特定小売等役務とは異なる性質の役務となるため、商標を使用して総合小売等を提供する明確な予定がない場合には、無理に指定役務の一覧に加えず、指定から除くほうが無難です。
使用意思に関する拒絶理由
使用意思の問題は、単に「広すぎる出願」の場合だけに限りません。
出願人自身が出願商標を使用する意思がないことが客観的に明らかである場合の他、例えば、指定役務が国家資格を前提とするものであるにもかかわらず、出願人がその資格を持たない場合には、審査段階で拒絶理由が通知される可能性があります。
具体例としては以下のとおりです。
- 「医業」を指定する場合 → 出願人は医師個人、医療法人、病院開設の許可を受けた団体などに限られる。
- 「調剤」を指定する場合 → 出願人は、医師や医療法人、病院又は薬局の開設許可を受けている者などに限られる。
- 「法律業務」を指定する場合 → 出願人は弁護士個人または弁護士法人である必要がある。
- 「財務書類の監査又は証明」を指定する場合 → 出願人は公認会計士か監査法人に限られる。
等々。
このように、出願人の資格や業務実態からみて「自己(出願人)の業務に使用できない」と判断されれば、使用意思が欠如しているとして拒絶理由につながります。
この使用意思を理由とする拒絶理由に対しては、出願人がその役務に係る国家資格を有しているのであれば、それが証明できるもの(合格証明書や士業等の検索データベースの検索結果の写し)を審査官に対して提出することで、解消できる可能性が高いです 。
また、そもそも国家資格等を有していない場合には、「医業」や「法律業務」等そのものを指定役務とすることは認められないため、例えば、(実際に提供する役務が該当する場合には、)これに類似する役務である「医業に関する情報の提供」や「法律業務に関する指導・助言」という役務名にして出願することが考えられます。
ただし、「医業」や「法律業務」を指定役務として出願をした場合に、後で、「医業に関する情報の提供」や「法律業務に関する指導・助言」という役務に補正することは要旨の変更であるとして補正が却下されてしまいますので、最初の段階でこのような役務を指定役務の一覧に記載しておく必要があることに注意が必要です。
さいごに
商標出願における「使用意思」は、見落としがちな概念ですが、登録の可否を左右する大切な要素です。
形式的な疑義に対応できずに登録を逃すケースや、事業計画と合致しないまま過剰に指定してしまい補正を余儀なくされるケースも少なくありません。
また、明らかに商標を使用する意思を欠く商標は、登録後であっても、それが出願登録時点で使用意思を欠いたことを証明されると、商標権が無効とされる場合もあります。
将来的に使用する計画があるか、その範囲はどこまでかを明確にしたうえで出願することが、スムーズな登録と権利の安定につながります。
もし「使用意思」に関する拒絶理由や宣誓書対応でお悩みがあれば、ぜひ特許事務所にご相談ください。




