商標は誰の名義で出願すべきか?

意外と軽視されがちですが、これは商標出願における重要なポイントのひとつです。
商標はビジネスの看板であり、知的財産の中でもとりわけ“事業の顔”となるもの。

その権利が「誰に帰属するのか」は、後々の運用や経営の意思決定に大きな影響を及ぼしかねません。

本記事では、商標出願の際の名義選択について、それぞれの観点から、メリット・注意点・戦略的な判断ポイントを整理していきます。

出願人名義とは何か? ―単なる“届出人”ではない―

商標の出願人は、単に手続きをするための“届出人”ではなく、将来的に権利者となる予定の者です。
すなわち、出願人=その知的財産権の所有者となるわけです。
商標権や特許権、著作権などの知的財産権は、金銭的価値を持つ「財産権」であり、名義を誰にするかは、その権利の帰属先を明示することになります。

名義(=権利の帰属先)を誤ると、以下のような問題が将来的に発生する可能性があります。

  • ライセンス契約や譲渡契約の際、契約主体が異なると、交渉がなかなかまとまらない
  • 実際の事業主体と商標権者が異なることから、それが損害賠償の算定や権利行使の際に不利に働く場合がある
  • 商標権の場合、権利者と使用者が異なると、権利者が商標を使用していないとして「不使用取消審判(商標法第50条1項)」による取消しの対象となるリスクがある
  • 知財価値評価・資産管理において、権利者と使用者が異なることで知的財産の適切な価値を算出することが難しくなる

したがって、出願の段階で「誰に知的財産権を持たせるか」は、実質的な権利の帰属を考えるうえで最初に検討すべき重要事項なのです。

ただし、下記「名義は戦略の出発点 ― 後から変更するのは意外と大変」でも述べるとおり、名義が事業主体と異なってしまった場合には、後から名義の変更を行うことも可能ですが、手続上の手間や条件もあるため、初期段階での名義判断が重要です。
なお、出願人の名義は、特許権や意匠権でも同様に問題となりますが、以下では、商標権を中心に取り上げます。

法人名義か、個人名義か ―権利帰属をどう考えるか―

法人名義のメリット

法人でブランドや事業を運営している場合など多くのケースでは、主に次の理由から、法人名義で出願・保有するのが望ましいとされています。

  • • 組織資産としての一元管理が可能(他の知的財産・契約と整合しやすい)
  • • 法人としての信用・ブランドの裏付けになる
    →事業提携、アライアンス又はライセンスにおいて、他社にブランドを利用させる際に、透明性と信頼性を示しやすい
  • • 知的財産権を担保にすることで、法人事業の資金調達に活用できる
  • • 知的財産権は無形資産として法人の資産計上ができ、IPOやM&Aのときに企業価値としてプラスに評価される場合がある
  • • 事業承継や譲渡の際の取扱いがスムーズ事業承継や譲渡の際の取扱いがスムーズ
  • • 使用実態との整合性が取れる
  • • 個人(自然人)の場合と異なり、法人が存続する限りは相続の問題が生じない
  • • 権利をめぐる法的紛争のリスクや手続きの煩雑さを法人に転嫁できる
    →個人が権利者の場合、その権利をめぐる争い(無効審判が請求された場合や、他者に権利行使を行う場合)の主体や費用負担は権利者である個人となってしまいます。

特に、商標を使っているのが法人である以上、その法人が正しく保有・使用していることは、不使用取消審判に対する答弁ライセンス交渉等でも重要となります。

個人名義のパターンと注意点

とはいえ、すべてのケースで法人名義が最適とは限りません。
以下のような状況では、個人名義での出願も一定の合理性があります。

  • 法人設立前(創業準備段階)に出願日の確保を急ぐ必要がある場合
  • 法人の事業ではなく、個人の事業として商標を使用する場合
  • 他企業の企業買収から、権利ごと取られないように守る場合
  • その他、あくまでも個人の財産として所有しておく必要がある場合

ただし、法人化後に事業を法人で行っているにもかかわらず、権利を個人名義のままで放置すると、使用主体との整合性に齟齬が生じ、商標の適切な維持や権利行使に支障が出る可能性があります。

そのため、法人化後に必要に応じて名義変更を行う前提で個人名義として出願とするか、最初から法人名義での出願を検討しておく方が実務的には安心です。

(補論)知的財産権の相続について

上述のとおり、商標権や特許権などの知的財産権は財産の一種ですので、通常の有形財産(土地やお金など)と同様に、権利者(所有者)が死亡した際には、相続の対象となります。

有形財産については、相続人がいない場合や相続人全員が相続を放棄した場合には、その相続財産は国庫(国の財産)に帰属することになりますが(民法959条)、知的財産権の場合には、それを一般に公開し、誰でもその知的財産を使用できるほうが政策上適切であるとの趣旨から、民法の例外として、権利が消滅することとされています(特許法76条参照)。

そのため、もし法人で使用する権利であるのにもかかわらず、個人で権利を所有していた場合、権利者が亡くなるなどしてしまうと、相続人がいないことを理由に権利が消滅してしまったり、元権利者の相続人と使用者である法人との間で権利の帰属関係をめぐりトラブルに発展してしまったりする場合もあるので、将来も見据えた知的財産の資産管理が重要となります。

共同出願はすべきか? ―合意がなければ“身動き取れない”権利に―

複数の事業者が共同で商標を使用する場合や、(発明やデザインの場合)開発段階で複数者の関与がある場合には、共同出願(=複数人による出願)という選択肢もあります。

共同出願のメリット

出資や開発比率などに応じた権利の分担関係を規定できる

財産たる商標権の持分割合(持分権)を決めることができます。
特にこれを決めない場合、例えば2人で共有する場合だと、1つの財産を均等に1:1の割合で持ち合うこととなります。
(当事者間の取決にもよりますが、)出願時の費用や更新費用などを持分割合に応じて、分担することも可能です。
小規模事業者やスタートアップにとっては経済的メリットになり得ます。

各関係者の権利を形式的に平等に扱える

原則、各共有者は、他の共有者の許諾を得ることなく自由に登録商標を使用することができ、また自らの持分権に基づいて第三者へ権利行使することも可能です。

共同出願のデメリットとリスク

しかしながら、共同出願には重大なデメリットも存在します。

  • ライセンス・権利譲渡には原則として全員の同意が必要。
  • 出願段階において拒絶査定不服審判を請求する際も全員が共同で行う必要がある。
  • 将来的な紛争・分裂時の処理が極めて困難となる可能性がある。
  • 後から共有者のうちの一人が単独で、先にした共同出願の登録商標に類似する商標を出願すると、先の登録商標の権利者(共同名義)と後の商標出願人(単独名義)が相違することを理由に、後の出願は他人の先行商標と類似するとして拒絶される場合がある。
  • 出願時点でのルール決め(覚書・契約)が不十分だと、権利関係をめぐって後に深刻な対立に発展することも。
  • 他の共有者が不適当な商標の使用を行っていると、それを理由に自己の持分もあわせて商標権が制裁的に取り消されてしまうおそれがある(商標法第51条1項:不正使用取消審判)。

そのため、現実には権利の一元管理(代表者一人に帰属させる)をして、別途契約で使用ルールや通常実施権(使用権)を取り決めるという方法が望ましい場合もあります。

名義は戦略の出発点 ―後から変更するのは意外と大変―

特許権や商標権などの知的財産権は一種の財産であり、後から法人や他人に承継(譲渡)することは可能です。
出願人名義も、出願後であっても所定の手続を経て変更することができます。

ただし、名義変更や譲渡手続には、「出願人名義変更届」又は「移転登録申請書」、「譲渡証書」、「印鑑証明書」など所定書類の提出が求められるうえ、費用や手間、時間も一定程度かかります。
また、共同出願である場合には、原則全員の同意が前提となるため、調整が難航するケースも少なくありません。

こうしたことから、商標を“誰の名義で出願するか”は、初期段階で慎重に検討すべき戦略要素といえるでしょう。

【まとめ】名義の選択は、最も基本的で重要な知財戦略の起点である

商標出願における「名義」は、単なる書類上の記載事項ではなく、知的財産権の帰属とその活用戦略に直結する極めて重要な判断要素といえます。

  • 法人で使用する権利は、基本的に法人名義での出願・管理を推奨
  • 例外的に個人名義や共同出願もあり得るが、メリットとリスクを慎重に見極めること
  • 後からの変更も可能だが、手続負担や利害関係者の調整が必要になる

出願の段階で、事業体制や使用主体、ライセンス方針、トラブル時の対応方針などを見据えた名義戦略を立てることが、後々の知財運用を大きく左右します。

権利は「ただ取るだけ」ではありません!
自社にとって最適な名義とは何か迷ったときには、我々特許事務所への相談をお勧めします。