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商標権の登録後の流れ
商標権は、特許庁の審査で登録査定が送達された後、登録料を納付することで権利が発生します。
ちなみに、登録は10年一括払いか、5年ごとの分割払いかを選択することができます。
ここで、商標権は1度の登録でずっと守られるものではなく、更新を繰り返すことで、半永久的に保護される権利であることに気を付けましょう。
更新についても最初の登録と同様に、10年一括払いか、5年ごとの分割払いかを選択し、保護期間を選ぶことが可能です。
また、登録商標の範囲である商品サービス(区分単位)を、更新のときに一部削除して権利を継続させることも可能になります。
なお、更新を行うタイミングは法律で決められており、更新可能時期に更新を行わないと権利が消滅してしまう可能性があるため、期限の管理には注意が必要です。
ここでは更新を行う際に、どのような点に気を付けるべきか、リスクとともにご紹介します。
商標権を放置するリスク
商標権は5年又は10年のサイクルのため放置しがちですが、商標権を見直しせずにそのまま権利更新をしてしまうと、大きく以下2つのリスクが想定されます。
- ①他人の権利を侵害してしまうリスク
- ②自分のブランド(商標)が棄損されるリスク
以下では、上記の様なリスクが想定される具体的なケースごとに、詳しくご説明します。
(1)商品・事業の拡大や変更を行った場合
アパレルメーカー等が洋服だけではなく、バッグやアクセサリーを販売するように、事業を拡大することはよくあることです。最近ではコロナの影響で、飲食店がテイクアウト事業を展開することも増えてきました。
このように事業を拡大したり変更したりすることで、上記①②のリスクに該当してしまうかもしれません。
(1)ー①他人の権利を侵害してしまうリスク
商標権は指定する商品サービスの範囲内で有効な権利となります。
つまり、商標法上、たとえ同一の商標であっても、非類似の商品サービスを指定して出願をすれば、両商標の有効な権利の範囲は異なるため、その出願も登録が認められてしまうことになります。
このとき、上記例に挙げた「飲食物の提供」と「各テイクアウトの商品」や、「洋服」と「バッグ」「アクセサリー」はそれぞれ非類似の商品サービスと認められます。
※商標法上、「飲食物の提供」はサービス業と認められる一方で、メニューをテイクアウト販売する際は商品として認められるため、権利範囲が分かれてしまいます。
従って、自分の登録商標と同一又は類似の商標を、「各テイクアウトの商品」や「バッグ」「アクセサリー」の範囲で第三者が商標登録していた場合、たとえ自分が「飲食物の提供」や「洋服」で権利を持っていても、第三者の権利範囲に及ぶ商品サービスにも商標を使用していたのであれば、第三者の権利を侵害していると認められるおそれがあります。
(1)-②自分のブランド(商標)が棄損されるリスク
自社が登録していない商品サービスで、他社が類似する商標で類似する商品サービスを販売提供していた場合、自社は登録している商品サービス以外では正当な権利を有していないため、他社へ警告を行う等の措置を行うことができません。
このとき、自社ブランドと他社ブランドの混同が生じてしまった際、自社の消費者はブランドを間違えてしまい、信用していた自社の品質等を誤って認識してしまうケースが想定され得ます。
(2)商標に変更(ロゴを変える、略称を使用し始める)があった場合
事業展開において、自社のロゴを新しくしたり、ブランド名を省略して使用したりすることはよくあることかと思います。
商標権は類似の範囲まで効力が及ぶものですが、名称が大きく変わったり、ロゴデザインが全く異なったりするものは類似とはいえず、取得した商標権を更新しても、肝心な使用商標には保護が及んでいない場合があります。
(2)-①他人の権利を侵害してしまうリスク
他社が、自社の変更後の商標で既に商標登録を行っていた場合、たとえ自社に悪意がなかったとしても、形式的には他社の権利侵害に該当するため、他社から警告等を受ける可能性があります。
(2)-②自分のブランド(商標)が棄損されるリスク
他社が商標権を取らずに、自社の変更後の商標で実際に事業を展開していた場合も想定されます。
このとき、自社ブランドと他社ブランドの間で混同が生じることが考えられますが、自社は変更後の商標で登録を受けていない限り、他社へ権利侵害を訴えることは難しいでしょう。
また、商標法では不使用取消審判という制度があり、登録商標を3年以上使用していない場合、第三者からの請求により商標登録が全部または一部の範囲で取消されてしまいます。
商標が変更になった場合は、新しく使用する商標で出願をし直したり、今後もロゴを変更する予定がある場合には文字商標で登録を検討したりする必要があります。
(3)海外展開
日本で事業が成功し、ブランドが周知になってくると、米国や中国等の海外に展開することもあるかもしれません。
しかし、商標権は各国ごとに発生するものであるため、日本での商標権を海外に適用することはできません。
例えば、日本では類似の商標がなく登録が認められていても、展開を予定していた国では既に同一類似のブランドがあり、商標登録が認められず、逆にこのまま海外に事業を展開すると権利侵害の状態にある可能性も想定されます。
海外にも展開を予定している際は、予定国で他社の侵害にならないか、別名称や別ロゴで展開する必要があるかなどを早めに確認するために、外国での商標出願や商標の調査を行うこともご検討ください。
商標権の見直しに必要なこと
商標権の見直しは以下の4項目から検討してみてください。
(1)登録商標と使用している商標が一致しているか
登録商標とは全く異なる文字やロゴを使用している場合には、その使用商標は登録したものと非類似に該当し、保護されない可能性が高いです。その場合、登録商標を保持していても無駄な権利になってしまう可能性があります。
登録商標が不使用の状態にならないよう、登録商標と使用している商標が一致するか確かめましょう。
(2)登録の指定商品サービスと現在使用している商品サービスが一致しているか
商標権は指定した商品サービスの範囲で有効な権利になります。
現在販売又は提供している商品サービスが、登録した商標の商品サービスに含まれているか確認を行うことがお勧めです。
また、登録の範囲以外の商品サービスも継続して展開予定の場合には、安全に事業を行うため、新たにその範囲で出願を行い権利化しておくと良いです。
(3)海外展開を予定している又は海外進出をしているか
日本の商標権は日本のみで有効です。
海外でも事業を拡大しようと検討している際は、展開予定の国で安全に商標が使用できる状態か、必要な場合には調査を行って、海外でも登録を行っておくことをお勧めします。
(4)他人が自社の登録商標と類似した商標を使っていないか(模倣品が出回っていないか)
他社が自社の商標権を侵害していないか、こまめに情報を確認して適切な対応をとることで、自社商標が棄損されるリスクを減らすことができます。
他社商標との混同が生じてしまうと、ブランドの信用を取り戻すのに時間がかかってしまいます。
商標権の見直しの頻度は、1年単位と早めに複数回行っておくことが好ましいです。
定期的に、チェックポイントを押さえた見直しを心がけましょう。
【ポイント】ここだけは押さえて!
- 商標権を見直さずに放置していると、他人の権利侵害に該当してしまう等、大きな問題に発展するリスクがある
- 商標権の見直しは、①登録商標と使用商標、②商品サービス、③使用予定国、④模倣品の確認と、主に4つをチェック
- 商標の登録の内容が、実際に使用している商標や商品等に合致しているか確認することが大事
- 商標権は1年単位で、チェックポイントを押さえて見直しを行う必要がある
少しでもわからないことがある場合には、弁理士や特許事務所のプロにお願いすることをお勧めします。