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商標の早期審査制度とは?
ご存知のとおり、商標登録を受けるためには、特許庁に対して商標出願を行い、審査に通過しなければいけません。
この出願をしてから審査結果が通知されるまでの「審査期間」は、案件や時期などにもよりますが、約5か月~9か月程もかかっています。(2024年6月現在)
こんなにもかかってしまうのは、年間で約18万件以上の大量に出願される商標を審査官が1件ずつ審査を行っているためで、審査の順番待ちに大幅な時間を要しているためと言われています。
ちなみに、この審査期間は、特許庁の公式サイトから審査に着手される目安の時期が公開され、4か月ごとに情報が更新されています。
そのため、自分の出願する商標が審査にどれくらいの期間を要するかは、以下のサイトを確認しておくことで、おおよその審査期間を把握することができます。
◆商標審査着手状況(審査未着手案件)(特許庁)
このように、商標登録までは長い期間を要してしまう場合がほとんどです。
しかし、既に商標を使用していて早急に権利化を要する場合や、他社が自社の商標を無断で使用しており商標登録をする緊急性を有する場合などがあるかと思います。
このような場合、一定の要件(条件)を満たしていることを証明することで、商標出願の審査を通常に比べて早期に行う「商標早期審査制度」を利用することが考えられます。
早期審査の適用が認められた場合、2か月程度で審査結果を受領することが可能となります。
なお、新しいタイプの商標(動き商標、ホログラム商標、色彩のみからなる商標、音商標及び位置商標)や立体商標の一部、コンセント制度の適用を主張する出願や他人の氏名を含んだ商標など一部の商標出願については、早期審査制度の対象外となるので注意しましょう。
早期審査の利用条件(要件)
具体的には以下のような要件を満たしていることを「早期審査に関する事情説明書」に記載して、特許庁に提出する必要があります。
「早期審査に関する事情説明書」を提出すると、1~1.5か月程度 で適用の可否が判断されます。
早期審査の対象と認められない場合のみ、その理由を記載した「早期審査選定結果通知書」が通知され、対象と認められた場合には、特段、通知などはありません。
(1)通常の早期審査申請
早期審査の対象となるのは、大きくは以下の3つです。
なお、早期審査が認められるためには、基本的には出願商標を既に使用していることが求められますが、商品・サービスに係るカタログやチラシの印刷を既に発注していたり、商品・サービスに関する報道やプレスリリースがあったりするなど、使用の準備を相当程度進めていると評価できる場合も含まれます。
対象1:(特許庁の基準外の商品・役務含む)全ての指定商品・指定役務では証拠が提出できず、一部しか証明できないが、早期の権利化に特段の事情がある
「出願人(又はライセンシー)が、出願商標を指定商品・指定役務の一部に既に使用していて(又は使用の準備を相当程度進めていて)、かつ、権利化について緊急性を要する商標」
指定商品・指定役務のうち、一部の範囲であれば、出願商標を既に使用している証拠を提出することができ、また、権利化に特段の事情(緊急性)がある場合、この対象1に該当します。
指定商品・指定役務が全て特許庁の定める基準(特許庁の公表例)の商品・役務である場合には、権利化の緊急性の要件が求められないため、対象3のパターンで早期審査を利用するほうが早期審査利用のハードルは低いでしょう。
なお、権利化に緊急性がある場合とは、以下の5つの状況が該当します。
- ①第三者が出願商標を侵害(無断で使用)している
- ②出願商標の使用について、第三者から侵害警告を受けている
- ③出願商標について、第三者からライセンス許諾を求められている
- ④出願商標について、日本以外の国でも出願中の状況である
- ⑤出願商標をマドプロ出願(条約を利用した国際登録出願)の基礎とする予定がある
対象2:全ての指定商品・指定役務で証拠が提出できる
「出願人(又はライセンシー)が、出願商標を既に使用している商品・役務(又は使用の準備を相当程度進めている商品・役務)のみを指定している商標」
指定商品・指定役務の全てで出願商標を使用している証拠を提出できる場合、対象2に該当します。
対象3:全ての指定商品・指定役務では証拠が提出できないが、一部の指定商品・指定役務であれば証拠を提出できる
出願人(又はライセンシー)が、出願商標を指定商品・指定役務の一部に既に使用していて(又は使用の準備を相当程度進めていて)、かつ、商標法施行規則別表や類似商品・役務審査基準等に掲載されている商品・役務のみを指定している商標
一部の指定商品・指定役務であれば出願商標を既に使用している証拠を提出することができ、かつ、全ての指定商品・指定役務が特許庁の基準内の商品・役務である場合、対象3に該当します。
早期審査の申請とあわせて、商品・役務を削除又は修正する手続補正書を提出することもできるため、基準外の指定商品・指定役務がある場合などには、手続補正書で補正して対象3に合致させることも考えられます。
なお、“特許庁の基準内の商品・役務”とは、特許庁で公表している「類似商品・役務審査基準 〔国際分類第✕✕版対応〕」に掲載されている商品・役務のことであり、厳格に判断されます。
具体的には、ここに掲載のある商品・役務の表現と表記の違いや「・」(中黒)や「、」(読点)の有無に差異があるだけでも、特許庁の基準内の表現とは認められないため、注意が必要です。
一般的には、早期審査適用の難易度などを考慮して、一部の指定商品・指定役務に対して既に出願商標を使用していることの証明で足る対象3のパターンで利用することが多いです。
そのため、早期審査を利用する(対象3の)場合、自由記述で指定商品・指定役務(=権利範囲)を記載できず、特許庁の基準内の商品・役務のみとなってしまいますので、特許庁の基準内の商品・役務のみの指定で、自分の商標がきちんと保護されるのか、つまり、権利範囲として不足やリスクがないかをしっかり確認しておく必要があります 。
もし、商標を使用する商品・役務が特許庁の基準内になく、(かつ、特段の事情がない上、)証明できる範囲では指定商品・指定役務を過度に限定しすぎてしまう場合などには、無理に早期審査を利用せずに、通常どおりの審査で進めていくのが無難でしょう。
また、早期審査申請を行う上で、もう1つ重要なことは、客観的に(特許庁の審査官が見て)出願商標が一定の要件を満たしていることが分かる事実(証拠)を事情説明書に掲載することです。
具体的には、提出する事情説明書には、原則、
①出願商標と完全同一(※使用商標と出願商標とが軽微な差異であれば認められる場合ある )の商標が掲載されていて、
②それが指定商品・指定役務と同一の商品・役務に 使用(そのことが掲載)されており、
③出願人名称と同一の名称又は(ライセンス関係がある場合)ライセンシーの名称、並びに、
④出願人住所(営業所住所)と同一の住所(+⑤特殊な事情がある場合はそれに対応する事実)が掲載されている必要があります。
これらのどれかでも欠けていると早期審査の申請は却下されてしまう可能性があるため、(主観的に)なんとなく商標が使用されていることがわかる程度では不十分なことに注意が必要です。
また、提出する商標の使用証拠としては、商品・サービスのカタログやパンフレット、Amazonや楽天などのECサイトでの商品販売ページや、商標と商品・役務が掲載されているウェブサイトを使用することが一般的です。
(2)災害復興支援早期審査制度
これは、震災の影響を受けた事業者の知財を活用した復興を支援する目的で認められている早期審査制度です。
特定災害地域(下記「特定災害地域一覧」参照)に住所(居所・事業所)を有しており、地震に起因した被害を受けた者が行う出願が対象となります。
「早期審査に関する事情説明書」の「緊急性を要する状況の説明」の項目に、『出願人である○○株式会社は、特定被災地域に含まれる○○県○×市に住所を有しており、東日本大震災により○○の被害を受けた』(「震災復興支援のための商標早期審査・早期審理ガイドライン」(特許庁)より)のように、特定災害地域に係る震災によって被害を受けた旨を記載することで足ります。
この早期審査を利用するためには、通常の早期審査と同じく申請を行い特許庁の審査を受ける必要がありますが、通常の早期審査のように、既に使用していることや使用の準備を進めていることを証明する必要がないため、この要件を満たしている場合には、積極的に利用すると良いでしょう。
◆特定災害地域一覧(特許庁)
ここまで、商標出願の早期審査制度について、詳細に説明してきました。
ただ、大前提として、日本の商標制度は特許庁への出願日の早い順に保護(登録)される「先願主義」を採用しています。
そのため、自分の出願が早期審査の適用を受けて審査期間が早期化されるものであったとしても、自分の出願より先に、他者の同一又は類似の商標が出願されていれば、その他者出願を追い越して自分の出願が先に登録されることはない(先行商標との同一又は類似を理由に拒絶の対象となる)ことにも留意しておく必要があるでしょう。
【ポイント】ここだけは押さえて!
- 通常だと、約5ヶ月~9か月に及ぶ商標出願の審査を2か月程に短縮するのが「早期審査制度」
- 基本的に、早期審査制度を利用するためには、商標を既に使用していることが求められ、客観的な証明ができる必要がある
- ただ、災害の影響を受けた地域に住所を有する場合であれば、使用の証明なしで早期審査制度を利用できる場合がある
- 大前提は、出願日の早い順(先願主義)なので、出願を早い段階で行うことが最も重要
一般的に、出願する商標で早期審査制度を利用するのに適しているかの判断や、早期審査に関する事情説明書の作成などは難易度が高く、間違った方法で進めてしまうことがあります。
そのため、早期審査を利用して早急に権利化を進めたい場合には、しっかりとその意向を伝えて、特許事務所や弁理士に相談することをお勧めします。