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「ビジネスモデル特許」という用語がありますが、皆さんご存じでしょうか?
「ビジネスモデル」とは、事業の収益化の仕組みのことですので、
ビジネスモデル特許というと、この仕組みそのものを独占できる特許とのイメージを持つと思います。
そんな収益化の仕組みの特許を取れたとすると最強ですね。
しかしながら、現代の特許実務において、「ビジネスモデル特許」とは、
ビジネス方法がICT(情報通信技術)を利用して実現された「ビジネス関連発明」についての特許を指します。
つまり、
「ビジネスモデルの実現のために使用される、情報技術(IT)などの新技術に与えられる特許」
と説明されることが多いです。
例えば、インターネットを通じての、電子商取引のビジネス方法において、
・その商取引を行うためのソフトウェアの動作
・効果的な広告を行うためのシステム構成
金融業界において、
・コンピューターを駆使して、高度な取引を行うためのソフトウェアやシステム
などが対象になります。
シンプルな「ビジネスモデル」だけでは、特許とはならないのでしょうか?
どの様なものなら「ビジネスモデル特許」となるのでしょうか。
以下、詳しくご紹介していきます。
ビジネスモデルとは?
「ビジネスモデル」という用語は実務的にはよく耳にしますが、
実ははっきりとした定義は存在しません。
一般的にビジネスモデルといえば、
「仕事のやり方」、「儲けるための方法」、「ビジネスにおける収益化の仕組み」
のように説明されます。
例えば、コーヒーメーカーやコーヒー豆を取り扱う会社「A社」が、とある会社「B会社」に、
「我が社のコーヒーを定期的に買いませんか?福利厚生にもいいですよ!」と営業に来たとしましょう。
ここでB社の社長は、
「確かにコーヒーは社員も良く飲むから、あるといいけれども、どうしようかなあ・・・。
コーヒーメーカーを購入したり、設置場所も用意しなきゃいけないかな・・・お金がかかるかな。」
と少し悩み事が頭に浮かんだとします。
するとA社は、
「我が社のコーヒーメーカーを無料で設置します。
キャビネットも、フィルタもミルクや砂糖も、すべて無料ですので、
初期費用は一切かかりません。
貴社は、コーヒーの粉を最低毎月100個購入していただければ結構です。」
と提案します。
これを聞いたB社の社長は、話題のコーヒーメーカーをただで使えるとうれしくなって、
「100個分のコーヒーの粉の消費くらいであれば、うちの従業員数であればちょうどいいくらいだろう。
初期費用が全く掛からないのであれば、従業員はよく喫茶店でコーヒーを買ってくるし、
全体としてみれば変わらないな。よし、それで契約しましょう。」
と言いました。
この場合、A社の行った、
「オフィスに設置するコーヒーメーカー等を、無償で提供する代わりに、
コーヒーの材料を、その会社から必ず毎月100個は購入してもらう」
という商売の方法。
これは、
「毎月、コーヒーの粉を一定数以上購入してもらうことで利益を得る。
そのために、コーヒーメーカーを無償提供することで、導入ハードルを低くする。」
という収益化の仕組みであり、その意味で『ビジネスモデル』と呼ぶことができます。
ビジネスモデル特許とは?
さて、上で説明したような、「ビジネスモデル」を特許化することは可能なのでしょうか?
結論を言いますと、「不可能」です。
つまり、ビジネスモデルそのものは、特許を受けることができないのです。
なぜでしょうか?
特許が保護するのは『発明』です。
さらに発明は、
「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」
と定義づけられています。
ということは、ビジネスモデルは人為的取り決めであり、
自然法則を利用したものではないので、特許の対象とはなり得ないのです。
これが「ビジネスモデルは特許の対象となり得ない」という理由です。
それでは、最近の知的財産用語の中に登場してきた、
『ビジネスモデル特許』は、一体どんなものなのでしょうか?
それから、どんなものであれば、ビジネスモデル特許として、
特許を取得できる可能性があるのでしょうか。
ビジネスモデルのような、人為的取り決めが特許にならないということは、
古くから確立された考え方でした。
ところが平成10年、米国の裁判所で、
「ビジネスの方法であることで、直ちに特許の対象となり得ないわけではない」
という判決が下されたのをきっかけに、ビジネスモデルそのものも特許になる可能性がある、
という考え方が生まれ、一種のブーム的に『ビジネスモデル特許』という用語が生まれました。
平成10年以降、アメリカでも日本でも、
ビジネスモデルを保護しようとする出願が急増しましたが、いずれの国でも、
純粋にビジネスモデルのアイディアを独占しようと意図する出願の、
9割以上が拒絶されるという結果になりました。
これを機に、審査実務が徐々に明確化され、
ビジネスモデルのアイディアそのものについては特許の対象とならないこと、
このアイディアを実現するための、具体的な装置や方法であれば特許の対象となること、
などの実務が確立されてきたといえます。
現代では、ビジネスモデル特許とは、
「ビジネスモデルを、ITを利用して実現する装置・方法の発明に対して与えられる特許」
と定義づけられています。
ここで、ご注意いただきたいのが、
法律上「ビジネスモデル特許」という特別なカテゴリがあるわけではないことです。
あくまでも、装置・方法などの特許です。
このように、先ほどご説明したコーヒーメーカーの無償提供のような、
単なるビジネスの方法としてのビジネスモデルは特許になり得ませんが、
コンピューターやソフトウェア、システム、装置を用いて実現するビジネスモデルについて、
コンピューターやソフトウェアの処理方法や、システムや装置の構成については、
特許の対象となり得るのです。
ビジネスモデル特許の実例として『マピオン特許』の事例が分かりやすいでしょう。
マピオン特許
マピオン特許とは、地図情報サイトに、企業が自社の位置を登録することで、
ユーザーが地図情報にアクセスすると、広告が表示される、
という広告ビジネスモデルに利用されるコンピューター処理方法の特許です。
まさに、
「ビジネスモデルをITを活用して実現し、そのITの部分について特許を取得している」
ビジネスモデル特許の取得を実現している具体例でしょう。
特許2756483号
サーバ側からコンピュータネットワークを介して広告情報を供給する広告情報の供給方法において、
広告依頼者に対しては、広告情報の入力を促す一方、
前記サーバ側に予め記憶された地図情報に基づいて地図を表示して、
当該地図上において広告対象物の位置指定を促す段階と、前記地図上において位置指定された広告対象物の座標を、
入力された広告情報と関連づけて前記サーバ側で逐一記憶する段階とを備える一方、
広告受給者に対しては、
前記サーバ側から前記地図情報に基づく地図を表示するとともに、当該地図上の地点であって、
記憶された広告対象物の座標に相当する地点に、図像化した当該広告対象物を表示して、所望する広告対象物の選択を促す段階と、
選択された広告対象物に関連づけられた広告情報を前記サーバ側で読み出す段階と、
読み出された広告情報を、前記広告受給者に対して出力する段階とを備えることを特徴とする広告情報の供給方法。