ライバル社の製品やサービスを調査していると「特許」の文字が・・・。こんなとき、自社の事業は特許侵害?と心配になってしまいますよね。そこで今回は、他社が「特許出願中」、「特許取得」等とうたっている時の対処法、また特許の権利範囲の考え方について解説します。

 

1.まずは対象の特許を確認

他社が「特許出願中」、「特許取得」等をアピールしていたら、まずは慌てず『J-PlatPat』にアクセスして、その「特許」の内容を確認しましょう。INPITが提供する『J-PlatPat』では、特許庁が発行する公報を閲覧することができます。(J-PlatPat:https://www.j-platpat.inpit.go.jp/

上部メニューの「特許・実用新案」にポインタを合わせるとプルダウンメニューが表示されるので、特許の番号がわかる場合には黄色の矢印部分を、わからない場合には緑の矢印部分を選択して特許の検索を行いましょう。

「特許取得」等の表示をする場合、特許番号等を同時に表示することが多いため、ここでは番号がわかる場合について説明します。

黄色の矢印部分を選択すると、次のような画面が表示されます。

「番号」の欄に、調べたい特許の番号を入力して「照会」をクリックすることで対象の特許が検索できます。番号にはいくつか種類があるので、種類に応じた「番号種別」を選んで入力しましょう。「特願2020-000000」の形式なら「特許出願番号」、「特開2000-000000」の形式なら「公開番号・公表番号」、「特許第0000000」なら「特許番号」です。

一方特許の番号がわからない場合には、緑の矢印のメニューからキーワードによる検索で対象の特許の目星をつけることができます。例えば検索項目として「出願人/権利者/著者所属」を選択して気になる他社の社名をキーワード入力すれば、その他者の出願を抽出することができます。

なお、特許出願は出願から1年6月経ってから公開されるため、出願されたばかりのものは検索しても見ることができません。継続的に他社の出願を調査して、関連する出願がされていないか定期的に確認しましょう。(参考:特許公報を有効活用しよう

 

2.特許権が存続しているかを確認

対象の特許(出願)が特定できたら、次に確認しなくてはいけないのが「特許が成立しているか」です。特許権が生きていなければ、その時点で特許の侵害になることはありません。特に「特許出願中」である場合、まだ特許権は成立しておらず、この時には、特許庁に情報提供を行って権利化を妨害することも可能です。

権利の状態を見るためには、検索結果画面の右側の「経過情報」を選択します。すると経過情報照会の画面が開き、特許権が成立している場合には「経過記録」「出願情報」等のタブと一緒に「登録情報」のタブが表示されます。「登録情報」タブ内「登録細項目記事」を確認し、権利が存続しているか否かを確認しましょう。

一方「登録情報」のタブがなければ、特許権が成立していないと判断できます。この場合は、今後の権利化の可能性があるか否かが重要です。この時は「経過記録」を確認して、出願から3年以内に出願審査請求がされているか、拒絶査定が確定していないか、を検討しましょう。まだ出願から3年経過していない場合や、審査中である場合には、今後権利化される可能性のある出願と判断できます。

 

3.権利範囲の確認

特許権が成立している、又は権利化の可能性があると確認できたら、いよいよその特許(出願)の範囲を確認して、自社の事業が含まれるかどうかを検討しましょう。ここで特許権が成立している場合には、公開特許公報ではなく特許公報を確認します。検索結果の「特許0000000」の形の番号から、特許公報を確認できます。

特許の範囲は、公報の中の「特許請求の範囲」の記載によって決まります。各請求項は独立した権利として扱われますが、請求項1が最も広い範囲を示していることが多いため、ひとまず請求項1の記載を確認するとよいでしょう。

 

特許の範囲に入るか否かは、「請求項に記載された構成要件を、自社事業(製品)が全て充足するか否か」によって決まります。つまり、記載された要件を全て満たしていれば、他の付加要素があってもなくても、特許の範囲内となり、侵害の可能性があります。一方、ひとつでも満たさない構成要件があれば、侵害にはならないと判断できます。

具体例を挙げて考えてみましょう。たとえば請求項1が次のように記載された特許があるとします。

【請求項1】

(A)六角柱型で

(B)黒鉛の芯を備える

(C)鉛筆。

※(A)~(C)の符号は説明のために付したものです。

この場合、例えば自社製品が六角柱ではなく円柱型の鉛筆の場合や、芯に黒鉛を使用していない場合には、自社製品がそれぞれ(A)や(B)の構成を備えないため特許の範囲外となり、請求項1の侵害にはなりません。

一方、自社製品の鉛筆が六角柱型で黒鉛の芯を備えていれば、他に消しゴムがついていようと芯が2本入っていようと関係なく、全ての要件を満たします。従ってこの場合には特許の範囲内の実施となり、侵害が成立する可能性があります。

 

まとめ

今回は、他社が「特許出願中」、「特許取得」等と表示している場合について、他社の特許の見つけ方と、権利範囲の考え方を中心に解説しました。他社の商品やホームページに「特許」の記載を見つけたときは、焦らずにその内容を特定し、権利が成立しているか、また自社事業が権利範囲に含まれるのかを検討しましょう。

ただし、特許の書類は読みづらいことも多いものです。自分では自社事業が侵害になるのか判断できない、自信が持てないという場合には、すぐに特許事務所に相談しましょう。また検討した結果、侵害しているかもしれない、という場合には、詳細な検討やその後の方針決定に、専門知識を持った弁理士の力が不可欠です。少しでも侵害の心配があるときは、まずは特許事務所に相談しましょう。