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企業のコマーシャルなどにはキャッチフレーズがつきものです。
商品やサービスの機能やイメージをごく短い文章で伝えるキャッチフレーズは、広告媒体という限られたフィールドの中で魅力を伝え消費者の好奇心をかき立ててくれます。
なかにはキャッチフレーズを聞いただけでも、どの会社の宣伝なのかがすぐにわかるくらい認知度が高いものもあるくらいです。
こうなってくると、自社のキャッチフレーズは第三者に無断で使用されるわけにはいかないと考えるでしょう。
こうした実情に照らして、2016年から商標審査の基準が改定され、キャッチフレーズの商標登録も可能になりました。
ここでは、キャッチフレーズが知的財産権上の問題となるケースを検討していきます。
≪広告上に他者が保有するキャッチフレーズ商標が存在するケース≫
原則的に商標法ではキャッチフレーズの商標登録は認められていません。
キャッチフレーズを見聞きしただけでは、だれのどんな商品・サービスであるのかを識別するのは困難だからです。
とはいえ、キャッチフレーズといえども長く使用され企業や商品の代名詞のような存在にまで昇華したものも存在します。
こういったキャッチフレーズなら「だれのどんな商品・サービスであるのかを認識できる」といえるでしょう。
そのため、2016年以降はキャッチフレーズの商標登録に関する規制が緩和され、数多くの企業や団体がキャッチフレーズ商標の登録を実現しています。
すると、ふと思いついたキャッチフレーズが他者の登録商標と同一または類似しているというケースが発生することも想定されます。
たとえば、2019年1月時点では審査待ちになっている商標の中に「リフォームいつでも相談室」というものがあります。
図柄などと組み合わせたものではなく文字だけであり、キャッチフレーズ的な印象があるでしょう。
これは株式会社LIXILが出願したもの(商願2018―98665)ですが、もしこれが商標登録に至ったとしましょう。
すると、ほかの住宅メーカーが随時リフォーム相談を受け付けるサービスを始めて、サービスの名称として「リフォームいつでも相談室」を利用すれば商標権侵害になるはずです。
ここには大きな疑義はありません。
ところが、広告の文言の一部として「あなたのリフォームいつでも相談室でありたいという想いから〜」などと利用した場合はどうなるのでしょうか?
LIXIL社としては「リフォームいつでも相談室」の登録商標を侵害していると主張するはずですが、広告主が「リフォームをいつでも気軽に相談できる場所」という意味合いで文言の一部として利用しただけだにとどまれば、識別力を持つ商標だとはいえないはずです。
実在する判例においては、キャッチフレーズ商標が説明文の中で使用されていたとしても「提供する役務の内容を端的に記述した宣伝文句」と評価したうえで、広告中に商標権者とは異なる事業者の名称がはっきりと明記されているため役務を提供する者の誤解を招くおそれもなく、商標権侵害にはあたらないと評価した事例もあります。
≪キャッチフレーズ商標の知的財産権上の問題点≫
キャッチフレーズを商標登録することは、商標法の原則的には「識別力がないため認められない」ものを認知度などの観点から拡大的に解釈して認めたものです。
キャッチフレーズ商標は、商品やサービスの内容を端的に短い文章で表現したものが多く、そもそも商標の目的である出所識別力は高くありません。
そうすると、第三者が無断で使用したとしても、先に挙げた想定例や実在する判例の解釈のように、商標権侵害にはあたらないと解釈されるケースも増えてくるでしょう。
キャッチフレーズを知的財産権で保護したいと考えるのであれば、あらかじめこの点の理解を深めておく必要があります。
また、自社のキャッチフレーズについて第三者から商標権侵害を指摘された場合は、キャッチフレーズの一文が「商標的な使用であったのか」を詳しく分析する必要があります。
たしかに指摘された商標が広告中に記載されていたとしても、そのキャッチフレーズを商品やサービスを識別する目的で使用したと認められるのかなどについて総合的に判断する必要があるのです。
≪キャッチフレーズ商標の取扱いで困ったら特許事務所へ≫
自社が考案したキャッチフレーズを知的財産権で保護したい場合は、識別力が弱いキャッチフレーズをどのようにバックアップしていくのかを多角的に考える必要があります。
たとえば、図形やデザインと組み合わせることで文字のみの場合よりも識別力を高めることができます。
こういった対策は、知的財産のプロフェッショナルである弁理士のアドバイスを受けてこそ実効あるものになります。
また、自社の広告などが第三者のキャッチフレーズ商標を侵害している旨の警告を受けた際にも、弁理士に見解を求めて対応するのが賢明でしょう。
解釈が難しいキャッチフレーズ商標の取扱いは、特許事務所にお任せするのがベストです。