近年の企業戦略の中でも特に重要視されることが多くなったのが『オープンイノベーション』です。

知財担当者の方であれば、自社で実践したことがなくても耳にしたことくらいはあるでしょう。

たしかに、異業種との技術的な連携によって新たな商品を開発し、自社のみでは切り開くことができなかったはずのシェア獲得を実現する概念ではありますが、一方ではデメリットも存在することは無視できません。

ここでは、オープンイノベーションの定義や事例を交えながら、知的財産におけるオープンイノベーションのメリット・デメリットを紹介していきます。

 

≪知的財産におけるオープンイノベーションとは?≫

オープンイノベーションとは、ハーバード・ビジネス・スクールのヘンリー・チェスブロウ助教授が提唱したビジネス概論のひとつです。

『イノベーション』は日本語に直訳すると『技術革新』を意味しており、オープン戦略による技術革新を目指すものがオープンイノベーションです。

企業・大学・研究機関などが、第三者が持つ技術やアイデアを集約・募集することで、新たな商品・サービス・ビジネスモデルを生み出すことと定義されています。

この定義に照らせば、知的財産におけるオープンイノベーションとは、自社が所有する特許・商標などの知的財産を部分的に開放し、あるいは連携を目指す他社が開放した知的財産を活用することで、複数の企業が連携して新たな商品・サービスを開発することを意味します。

 

≪知的財産におけるオープンイノベーションのメリット・デメリット≫

近年では、知的財産のオープンイノベーションを活用する事例が急増しているため、安易にオープンイノベーション戦略を展開する企業も増えています。

しかし、そもそも知的財産の分野では、自社が所有する技術を独占することで革新的な商品やサービスを生み出す『クローズドイノベーション』を基本としてきたため、十分な理解なくオープンイノベーション戦略を展開してしまったことで企業連携に失敗してしまった事例も少なくありません。

理解なく不慣れなことにチャレンジすることは『挑戦』ではなく『無謀』だといえます。

 

特許庁は、知的財産におけるオープンイノベーションのリスクなどについてパンフレットを作成し注意を呼びかけています。

知的財産におけるオープンイノベーションのメリット・デメリットは以下のとおりです。

 

【メリット】

・開発期間の短縮を図ることができる

・新たな技術やノウハウを蓄積することができる

・技術者の視野を拡大し、組織が活性化する

【デメリット】

・情報、アイデアが漏洩するおそれがある

・秘密保持契約など、契約関係の手間が生じる

・提携する相手と成果を分配することになり、利益の独占が不可となる

・成果の分配に失敗すると、提携相手との軋轢が生じて契約解消に至るおそれがある

 

企業戦略としてオープンイノベーションを採用したいと考える企業は、まずはメリットだけに目を奪われがちになります。

「自社だけでは実現し得ないことを実現できる」というメリットだけに着目し、できるだけ自社の知的財産をクローズにしたままで、他社の知的財産をオープンにしてもらいたいと願ってしまうのです。

しかし、提携を目指す他社も同様の考えを持っており、オープンにする領域が広がれば広がるほどに対価を求めることは必然でしょう。

その結果、成果の分配において交渉が決裂し、あるいは発生した成果の不平等感によって契約解消に至ってしまうケースは珍しくありません。

オープンイノベーションによる企業連携が失敗してしまうと、時間的・経済的なロスが発生するリスクがあるだけでなく、自社がオープンにした知的財産やノウハウが漏洩してしまうという大きな不利益が発生してしまいます。

そのため、知的財産におけるオープンイノベーションを採用する際は、メリット・デメリットを十分に理解しつつ、双方が成果分配に不満を生じないwin-winの関係を意識することが大切です。

 

≪知的財産のオープンイノベーションに成功した事例≫

知的財産のオープンイノベーションに成功した事例を紹介しましょう

玩具メーカーの『バンダイ』と化粧品メーカーの『ファンケル』は、お互いが持つ技術とシェアを最大限に活用したオープンイノベーションによって『美肌鑑定』という商品を開発しました。

センサーが肌に触れることで『肌値』と呼ばれるスコアを表示するという測定機能と遊び心を両立させた商品です。

ファンケルは人の肌についてスコア化する技術とノウハウを持っており、その技術については特許を取得済みでした。

一方のバンダイは、玩具メーカーとして商品化技術や市場でのノウハウを十分に所有しています。

このオープンイノベーションによって生み出された新商品により、ファンケルとしては化粧品メーカーとして新たなユーザーを囲い込むという成果を、バンダイとしては商品販売と『美肌鑑定』という商標を獲得するという成果を得ています。

お互いの知的財産やノウハウなしではなし得なかった成果を得ることでwin-winの関係が構築されており、知的財産におけるオープンイノベーションに成功したモデルとなる事例だといえるでしょう。