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従来、商標法の規定に従って親会社の商標を子会社が登録しようとしても先に登録されている他者の商標が存在することを理由に拒絶されていました。
しかし、2017年4月の商標審査基準の改定によって、子会社が親会社と同一または類似した商標の登録が可能になりました。
子会社でも法律上は別会社だから親会社の商標に類似する商標は登録できない?
商標法では、他人の商標が先に登録されている場合、同じ商標や類似する商標を登録することはできないことが規定されています。
商標制度は、自社が提供する商品やサービスと他人のそれを識別するための登録制度であり、商品やサービスのブランド力を高める能力を持っているのですから、後発となる他人に同じ商標を使用されるわけにはいきません。
本来、商標を活用してビジネスをおこなう企業・個人にとっては非常に心強い制度ですが、実はあるジレンマが存在していました。
それは「子会社の取扱い」です。
子会社は、親会社の資本によって分裂したり親会社の資本傘下に算入した、実質上は同じ経済組織です。
ところが、商標法の規定に従えば、子会社と親会社は同じ資本傘下であっても登記上はあくまでも別の法人であるため、子会社が親会社と同じもしくは類似した商標を登録することができなかったのです。
たとえば、ABCホールディングスという会社があったとします。
ABCホールディングスは、自社の商標として「ABCホールディングス」を登録しました。
その後、ABCホールディングスが子会社としてABC商事を設立したので、ABC商事が「ABC商事」で商標出願したところ、すでに「ABCホールディングス」の商標が登録されているため、ABC商事はABCホールディングスの類似商標として特許庁から拒絶されてしまいました。
これはあくまでも例題ですが、全く同じ仕組みのジレンマは子会社を持つ親会社の大多数が持つ悩みでした。
このジレンマを解消するため、子会社が親会社と類似した商標を使用する場合は、親会社があらかじめ子会社に使用させることが想定される商標を登録しておき、子会社が使用する際にはライセンス契約を交わしたり譲渡するという手段を取っていたのです。
わざわざ子会社の商標のためにライセンス契約を交わしたり譲渡をしていれば、契約の手続きや会社の会計が煩雑になってしまいます。
そこで、子会社の商標登録におけるジレンマを解消し、商標登録の自由度を高めるために、商標登録の審査基準の改定が行われたのです。
2017年4月の審査基準改定の内容
2017年4月に商標法の審査基準の改定がおこなわれ、子会社であることが証明できれば、子会社が親会社の商標と同一または類似した商標を取得することが可能になりました。
具体的には、実質的に支配関係にある者同士は、商標法にいう「他人」ではないとして、これらの者同士の商標が類似したとしても拒絶されないように改定がされました。
ここでいう「実質的に出願人の支配下にある者」の具体例は、
(ア) 出願人が引用商標権者の議決権の過半数を有する場合。
(イ) (ア)に該当しない場合であっても、資本提携の関係があり、かつ、引用商標権者の会社の事業活動が事実上出願人の支配下にある場合。
とされています。
この条件を満たした上で、商標権者が出願人に対して商標登録を許諾することで、子会社は親会社の商標と同一または類似した商標の登録が可能になりました。
この改定は、出願人の利便性を大きく高めるだけでなく、商標制度の自由度を高めて本来の法の趣旨に沿った内容だと言えるでしょう。
商標審査基準の改定、メリットとデメリット
今回の商標審査基準の改定については、前時代的にはあまり問題として浮上することはありませんでした。
ところが、近年では分社化やM&Aなどによって組織の関連性も著しく変化する時代となっており、改定前の商標審査基準では親会社と子会社の双方に不都合を与える状態だったと言えます。
今回の商標審査基準の改定によって、関連会社の中で誰が商標を取得・管理するのかを、会社ごとに自由に決めることができるようになりました。
今回の改定は、まさに企業の在り方が激しく変化する時代の流れに沿った改定であるという点を考慮すれば、メリットが大きく目立つ改定となっています。
ただし、商標を一元管理しておくことに大きなメリットを感じていた企業であれば、むやみに今回の改定に従うべきではないかも知れません。
商標権は、特許など他の知的財産と比べると更新の頻度が少なく、管理が容易ではあります。
とはいえ、数ある自社の登録商標について不使用取消審判に耐え得るように管理していく必要があること、常に第三者による侵害行為がないかをウォッチングする必要があることなど、管理を野放しにしておいても良いというわけではありません。
子会社が親会社と同一または類似する商標を登録することによって、子会社にも管理義務が分散されることになります。
商標が持つブランド力を強固に維持管理していきたいと考えるのであれば、改定前と同様に子会社とライセンス契約を結んで親会社が厳密に管理するほうが好ましいケースも考えられます。