特許権は自由に第三者に譲渡できますが、共同出願した特許の場合は他の共有者の利益を保護するため自分の持分であっても自由に譲渡できません。

共同出願した特許の持分譲渡の注意点を紹介します。

 

共同出願した特許の持分譲渡にかかる制限

特許権は知的財産権の一つであり、相続や会社の合併・分割、相当の対価の支払いなどを理由に権利を譲渡することができます。

特許権の譲渡は、相続や合併などによる譲渡を一般承継、対価の支払いなどによる譲渡を特定承継と呼びます。

一般承継の場合は相続などが発生すれば特許権の承継の効力も同時に発生することになりますが、特定承継の場合は特許庁に対して『特許権移転登録申請書』を提出し特許原簿に移転登録しなければ効力は発生しません。

ただし、複数の出願人が存在する『共同出願』においては、出願に先立って交わした契約において特段の定めがない限り、共同出願人は特許権の持分を平等に所有すると定められています。

さらに、特許法第33条は、共同出願された特許権の持分譲渡は、他の特許権共有者全員の承諾が必要であることを定めています。

持ち分譲渡に他の共有者の承諾が必要であるという厳しい規定が設けられているのは「共有にかかる特許権は共有者全員が自由に特許を実施できる」という特許権の特性によるものです。

このような規定がなければ、例えばお互いに中小企業であるA社とB社が共同出願によって取得した特許権を、A社が独断で資本力と技術力が優る大手企業C社に有償譲渡することが可能となり、その場合、残るB社はシェアを奪われて非常に不利な立場となってしまいます。

このような不利益を防ぐため、共同出願された特許権は、たとえ自己の持分であっても自由に譲渡できず、他の共有者の承認が必要となるのです。

 

共同出願した特許の持分譲渡の方法

共同出願した特許の持分譲渡は、特許庁の特許原簿に特許権の移転が登録されてはじめて効力を持つことになります。

そのため、共同出願した特許の持分を譲渡するには、特許庁に対して特許権移転登録申請書を提出する必要があります。

また、この時、持分譲渡を証明するための『持分譲渡証書』と、他の共有者が特許権の持分譲渡を承認していることの証明として『同意書』を添付書面として併せて提出することになります。

持分譲渡証書については原則的に原本の提出が必要ですが、コピーを提出する場合は公証人によって「原本と相違ない」ことの証明を受ける必要があります。

また、持分譲渡証書は、契約金額に応じた収入印紙の貼付が必要となることにも注意しましょう。

 

持分譲渡時の注意点

共同出願した特許権の持分譲渡時に注意しておきたいポイントを挙げましょう。

まず「権利の移転時期」についての確認が必要です。

特許権の持分譲渡については、特許庁に対して特許権移転登録申請書を提出すると方式審査がおこなわれ、通常は約10日間程度で移転登録が完了します。

方式審査を通過して移転登録が完了すれば、持分譲渡を受けた側に特許権が発生しますが、契約後、移転登録が完了するまでの間はいまだ持分譲渡をする側が特許権者であり、特許権を維持する義務を負うことを契約書で定めておく必要があります。

 

次に「移転登録手続きの方法」についても取り決めておくべきでしょう。

移転登録は対価の支払いの後なのか?どちらが移転登録の手続きをおこなうのか?移転登録にかかる費用はどちらが負担するのか?などは契約書面において明らかにしておき、スムーズで安全な譲渡がおこなわれるようにしましょう。

「表明・保証事項の明示」も重要です。

譲渡者において、持分譲渡する特許が有効に存在しており無効審判や判決を受けていないこと、第三者から無効理由の指摘を受けるなどのトラブルを抱えていないことなど、健全な状態で持分譲渡を行うことを表明し、その内容を保証することを契約書面で明示することは、譲渡者・被譲渡者の信用関係を良好にします

「特許料の納付」についての取り決めも必須です。

譲渡後、翌年以降の特許料の支払いは被譲渡者の責任において納付するのは当然ですが、すでに納付済みの持分譲渡契約日以後の特許料について日割りで譲渡者に支払うなどの取り決めも盛り込んでおきましょう。

「訴訟の協力」は、将来的に特許の有効性を争う訴訟が起きた場合に、被譲渡者側では知り得ない情報の提供などの協力体制を約束するうえで非常に重要です。

持分譲渡後のアフターフォロー体制があることは、被譲渡者にとっても心強く安心して持分譲渡契約を結ぶことができるでしょう。

 

これらは特に気を付けておきたいポイントではありますが、共同出願した特許の持分譲渡については専門性が非常に高い案件となるため、一個人や法人の知財担当者が独断で全ての事項を取り決めて交渉するのは難しいでしょう。

持分譲渡の案件が持ち上がった時点で、速やかに共同出願した特許の持分譲渡に詳しく、経験が豊かな特許事務所に相談し、万全のサポート体制を確立しておくのが持分譲渡を成功させる秘訣です。