映画作品や放送番組の著作権者には『ワンチャンス主義』が与えられています。

著作隣接権のワンチャンス主義について解説します。

著作隣接権のワンチャンス主義とは?

映画俳優などの実演家と呼ばれる立場の人は、著作物の創作者ではありません。

しかし、著作物の制作や伝達において重要な役割を担っているため、著作権に並んだ権利を与えられています。

氏名表示権や同一性保持権などに代表される著作隣接権は、実演家の権利を保護するために設定される権利ですが、同じく著作隣接権の中に『録音・録画権』という権利が存在しています。

実演家が自分の実演を録音・録画することを保護する権利を指しますが、これを厳密に解釈すると、例えば映画の撮影を許諾して実演した場合、その映画作品が二次的にDVD化などによって再録される時にも録音・録画権の行使が可能となるでしょう。

しかし、多数の俳優が出演する映画作品において全ての実演家から再度許諾を得ていては、二次的な利用は困難となってしまいます。

そこで、実演家が自身の実演の利用を許諾する権利については「その実演が最初に利用される時に限って」認めることとしています。

つまり、DVDなどの二次的利用への許諾については、最初に映画の撮影を許諾する時に取り決める必要があるため、この原則を「許諾の機会は一度きり」という意味で『ワンチャンス主義』と呼ばれています。

ワンチャンス主義に従えば、映画の制作会社は最初に撮影の許諾を受けているため、映画作品をDVDなどに再録して二次的に利用する場合でも実演家の許諾を得る必要はなくなります。

 

ワンチャンス主義が適用される範囲

通常、映画作品は劇場公開だけでなくDVD化などによる二次的利用が一般化しているため、原則的にワンチャンス主義が適用されています。

では、テレビ番組ではどうでしょう?

放送事業者は、著作権法によって自己の放送のために実演家の実演を録音・録画する権利を有している一方で、放送の許諾には録音・録画の許諾を含まないと規定されているので、テレビ番組を編集してDVD化などの二次的利用を行う際には実演家の許諾が必要となります。

また、テレビコマーシャルなどでは、出演契約において利用期間が明確に定められるのが一般的であり、過去に使用していたCMを契約期間が終了した後で再利用する際には、ワンチャンス主義が適用されず再度実演家の許諾が必要となります。

ワンチャンス主義の解釈を誤ると実演家の著作隣接権を犯すおそれがあるため、たとえ自身が著作権者であったとしても実演家が存在する場合は注意が必要です。

 

ワンチャンス主義を取り巻く諸問題

映画作品だけでなく、テレビの放送番組やスポーツ競技に至るまで、さまざまなコンテンツが従来と違ったかたちで世間に公開されるようになりました。

とくに映画作品や放送番組は、DVDへの再録よりもインターネットにおける配信が目立ち、音楽CDについてはCDの売上が激減すると同時にインターネットのダウンロード数がその穴を埋めて余りあるほどに成長しています。

このように、著作物のあり方が変化するなかで、ワンチャンス主義のとらえ方にも大きな変化が生じています。

日本音楽事業者協会・映像コンテンツ権利処理機構による合同会議では、放送番組の場合はワンチャンス主義の適用をふまえて実演家のギャランティが上乗せされるのが一般的ですが、外部制作にかかる放送番組には適用されないという実情を大きな問題として協議されています。

外部制作番組は、制作会社にワンチャンス主義が適用されるため、実演家に支払われるギャランティが廉価になってしまい、実演家の利益が大きく損なわれているという現実があります。

ワンチャンス主義が適用される範囲や、実演家としての権利について確認の必要がある場合は、著作権の専門家にアドバイスを求めるべきでしょう。

信頼できる弁理士が所属する特許事務所に相談して、ワンチャンス主義のあり方や権利の主張、適切なギャランティの設定などについて相談するのがベストです。