競合他社との開発競争を繰り広げる状態になると「防衛出願」という戦法をとることがあります。

特許における防衛出願について解説しましょう。

 

防衛出願とは?

特許における『防衛出願』とは、他人の権利化を防ぐために特許を出願することを指す特許用語です。

ただし、防衛出願という手続きは法律上の規定には存在しません。

防衛出願では、基本的に自身が権利化できるか否かは目的としないのが特徴です。

特許は『先願主義』を採用しているため、先んじて特許庁への出願をおこなっておけば他者が後で出願しても権利化することはできません。

競合他社が自社と同じ発明の出願をおこなうことが予想されるケースで、自社では発明が権利化される見込みは薄いが他者に権利化されるのは不都合であるなどの場合には、防衛出願をおこない他者の権利化を防ぐ手法が用いられます。

通常、特許を出願した場合には、方式審査を経て出願から1年6ヶ月後に公開されます。なお、通常の出願では、権利化のため、出願日から3年以内に実体審査へと移行するための出願審査請求を行いますが、防衛出願では権利化を目的としないため、この出願審査請求を行わないこともあります。

 

防衛出願と公開技報の違い

防衛出願と同じく他者の権利化を阻む手法として『公開技報』の存在が挙げられます。

公開技報とは『一般社団法人発明推進協会』が発行する刊行物で、企業や研究者が発明を公開するものです。

公開技報は、権利化の如何に関わらず発明内容を世間に公開するため、特許の要件である『発明の新規性』を失わせる効力を持っています。

競合する第三者が同じ発明で特許を出願しても、すでに新規性が失われているため特許の要件を満たすことができず権利化に至ることはなく、防衛出願と同等の効果を発揮してくれます。

ただし、実際は公開技報よりも防衛出願が優先されることが多く、特許の取得・防衛を戦略的に実践する企業でも公開技報を活用するケースは稀です。

なぜなら、防衛出願といえども「やはり権利化すべきだ」と方針が変われば権利化への働きかけに転換することが可能だからです。

また、自社で使用することがなくとも他者が必要とすれば売却やライセンス契約によって利益を得ることが期待できるのであれば、出願は必須となるため、公開技報は敬遠される傾向があります。

現状の特許業界においてはあまり活用されていない手法ですが「他者に権利化を許さないための手段」の一つとして認知しておくと良いでしょう。

 

権利化を防いでも実施までは防げない

防衛出願に頼れば、競合他社による発明の権利化を防御できます。

 

ただし、防衛出願が成功したとしても、他社による権利化が叶わなくなるだけで、他社が発明を実施することを根本からは阻止できません。

他社による発明の実施を阻止するためには、防衛出願するだけでなく、実際に権利化する必要があります。

 

発明の実施まで防御するには、防衛出願だけでなく実用新案での権利化を検討するのも有効でしょう。

実用新案であれば、出願から1ヶ月~数ヶ月以内に権利化が可能となります。

ただし、権利行使のためには、登録された考案の新規性や進歩性を、特許庁審査官が客観的に評価した実用新案技術評価書において、権利が有効であると認められる必要がある点に注意が必要です。そして、権利が有効である認められれば、上記の実用新案技術評価書を根拠に実施を防ぐことができます。

 

しかも、出願~登録にかかる費用は、特許と比べると格安(凡そ半額)で済ませられるため、積極的な権利行使を行わないのであれば、できるだけコストをかけない手法を選ぶほうが賢明です。

防衛出願から方向転換して特許権の取得を目指すよりも、スピーディーかつ安価で済ませられるという点では、防御策として非常に優秀な手法だといえます。

 

競合他社との開発競争を繰り広げている最中に防衛出願を検討しているのであれば、自社のみの判断で防衛出願をおこなうのではなく、弁理士に相談することをおすすめします。

実際に防衛出願が効果を発揮するのか、それとも防衛出願ではなく実用新案で対抗するべきなのかの判断は、知的財産の専門家である弁理士のアドバイスを求めるべきです。

先走って防衛出願をする前に、まずは信頼できる弁理士が所属している特許事務所に相談しましょう。