特許権の侵害行為には、特許された技術を、特許権者に無断で使用したり、製品を販売したりする『直接侵害』のほか、侵害の一歩手前の行為や、直接侵害ではないが、実質的には侵害とみなすことができる『間接侵害』があります。

間接侵害の定義や実例について紹介します。

特許権の間接侵害とは?

特許権の侵害とは、特許された技術を特許権者に無断で使用したり、製品を販売したりすることを指します。

このような特許権の侵害形態を『直接侵害』と呼びます。他人の特許権を侵害した場合、刑罰の対象となるだけでなく、損害賠償責任なども負うことにもなります。

ところが、直接侵害のみを規制した場合、侵害の一歩手前の行為や、直接侵害には当たらないが、実質的には侵害に当たるのと変わらない脱法行為は、刑罰や損害賠償請求の対象にならず、野放しになってしまいます。

そこで特許法では、上記の直接侵害とは別に、『特許権を直接的に侵害する行為ではないが、特許権を侵害したものとみなす行為』、つまり、『間接侵害』に該当する行為を規定し、この行為を行うことを禁止しています。

特許権を侵害したものとみなす行為(間接侵害)には、以下のものがあります。

①特許を取った製品を生産したり、特許を取った方法を実施したりするためだけにしか使用しない部品や装置(専用品という)を、事業として製造・販売等する行為、

②特許発明の目的達成のために欠かせない部品(不可欠品という)を、特許発明が存在していること及び、その部品や装置が、特許を取った製品の製造や、特許を取った方法を実施するために用いられることを知りながら、製造・販売する行為(その目的達成のために欠かせない部品が、日本国内で広く一般に流通している場合を除く)。

③特許を取った製品や、特許を取った方法で製造した物を、事業として販売等するために、所持する行為。

間接侵害に該当する行為を犯した者には、特許法の規定によって5年以下の懲役または500万円以下の罰金、あるいは懲役と罰金の併科という重い罰則が科されますので、自社の業務が他者の特許を間接侵害してしまわないように注意を払う必要があります。

また、民法に基づく損害賠償を、あわせて請求される場合もあります。

間接侵害にあたる事例

特許の間接侵害にあたる事例を紹介します。

万年筆メーカーのAは、圧力を加えることによって書いた文字を消すことができる万年筆を発明し特許を取得しました。このとき、万年筆メーカーAは万年筆についての特許だけを取得し、インクに関する特許を取得していませんでした。

一方、この万年筆に使われているインクを解析したインクメーカーのBは、この万年筆に使われているインクと同じインクを「圧力で文字が消えるインク」として販売を始めたところ、万年筆メーカーAから「特許権の侵害である」と警告を受けました。

この場合は、万年筆メーカーAは、インクについての特許権を持っていないため、インクメーカーBが「圧力で文字が消えるインク」を製造販売しても、直接侵害には当たりません。

しかし、「圧力で文字が消えるインク」は、万年筆メーカーAの特許製品(万年筆)の目的(圧力で文字を消すことができる万年筆を製造する)を達成するためには欠かせない部品です。

そうすると、「圧力で文字が消えるインク」が、日本国内で広く一般に流通しているものではなく、かつ、インクメーカーBが、万年筆メーカーAの特許の存在を知りつつ、かつ、そのインクが万年筆メーカーAの万年筆の製造に使われることを知っていた場合、インクメーカーBが「圧力で文字が消えるインク」を製造する行為は、間接侵害に当たります。

この場合は、インクメーカーBは、「圧力で文字が消えるインク」の製造販売を中止するか、万年筆メーカーAとライセンス契約を結ぶという方法で問題を解消することになります。