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最終更新日:2024-6-28
※詳細な内容は、以下の記事をお読みください。
商標の先使用権とは?
すでに知的財産のことを学習している方であればご存知のとおり、日本の商標制度は特許庁への出願日の早い順に保護されます。この方式のことを「先願主義」と呼びます。
一方で、最も先に使用された商標を保護する方式も存在し、これを「先使用主義」と呼びます。
先使用主義では、商標の使用を開始した日が不明確な場合や、最も先に商標の使用を開始した者を特定するのが困難で、保護すべき商標の優劣がつけ難いという問題があります。
日本では、商標権の法的安定性を優先して、先願主義を採用しています。
ただし、先願主義のみに頼ってしまうと、未登録であるものの企業努力などにより、需要者から一定の認知度(周知性)を獲得し、信用が化体(蓄積)された商標の保護に欠けてしまう欠点があります。
そのため、商標法第4条第1項第10号では「周知性を有する同一又は類似の未登録商標が先行して存在する場合、後から商標出願しても登録を認めない」旨を規定して、未登録の周知商標を保護しています。
また、商標法第32条第1項では、他人(他社)が商標権を取得した場合でも、その商標権についての商標出願前から自己の商標を使用し、かつ、その他人の商標権の出願時に、自己の商標が需要者に広く知られているときは、例外的にそのまま自己の商標を使用する権利を有するとされ、 先行した商標の継続使用を認めています。
これが商標の『先使用権』です。
先使用権は商標登録や意匠登録のように、行政などから審査を経て登録を受ける権利ではありませんので、商標権のように、第三者に対して使用の差止や損害賠償等を求めることも原則できない点に注意が必要です。
このように先使用主義的な観点も法律に盛り込むことで、法制度が先願主義に偏りすぎないように調整を図っています。
先使用権の要件

商標権を有する他人との争いに、自らの先使用権を主張して対抗する場合は、「先行して商標を使用していた」という事実を証明する必要があり、さらに商標法で規定された一定の要件(条件)を満たしていることが求められます。なお、最終的にこの要件に合致するか否かを判断するのは裁判所です。
商標法第32条第1項では、
①他人の商標出願前から、日本国内において自分の商標を使用していること
②不正競争の目的ではなく商標を使用していること
③他人の商標出願時点で、自分の商標が需要者に広く認識されていること(周知性)
④継続して商標を使用していること
と規定して、先使用権の成立要件を明記しています。この中でも、特に重要なのが③周知性です。
先使用権の要件 -商標の周知性-
「自分の(未登録)商標が需要者に広く認識されている」という周知性の要件とは、他人の商標権についての商標出願時点で、自分の使用している商標が商品・役務(サービス)を表示する標識として、日本の需要者に広く認識されていることを意味しています。
他人の商標出願の際に、既に周知性を獲得して商標を継続使用している必要があるため、他人の商標出願よりも後に周知性を獲得した場合には、この要件を満たさないことになってしまいます。
また、この求められる周知性の程度、つまり、どれだけ広く認識されている必要があるかについては、一般的には「一地方において広く知られている」と解されています。
しかし、この周知性の地理的な範囲・程度には、さまざまな裁判例や見解が存在しており、ケースに応じて個別具体的に判断がなされているのが実情です。
実際の裁判例では、周知性を厳格に解釈する裁判例(広島地裁福山支判決昭和57年9月30日判タ499号211頁「DCC事件」)がある一方で、近年ではこれを比較的緩やかに解釈するものも多数存在しています(東京高判決平成5年7月22日判時1491号131頁「ゼルダ事件」や名古屋地判決平成20年2月14日裁判所HP「ブライド事件」 等)。
ただし、周知性を緩やかに解釈するとしても、先使用権の制度及びその趣旨を踏まえれば、せいぜい2、3の市町村の範囲内のような狭く限られた範囲の需要者に認識されている程度では、周知性の要件は肯定されないと考えるのが自然でしょう(大阪地裁平成9年12月9日知的載集29巻4号1224頁「古潭事件」)。
先使用権の証明と立証
先使用権は、他人の商標権に対する自己の「抗弁」(防御手段)ですから、自分が使用している商標が先使用権を有することの立証は、抗弁を主張する者が自ら行う必要があります。
自らの商標が商品・役務を表示するものとして広く知られていることを証明する証拠資料としては、いつから使用していたか“使用期間”がわかる資料(広告や新聞記事 等)、“使用地域”のわかる資料(店舗の場所、取引履歴 等)、“販売数量”や“事業規模”がわかる資料(販売数、売上、店舗数、テレビCM 等)、その他、“実績”や“評判”がわかる資料(受賞歴、顧客のレビュー、雑誌記事 等)などが挙げられます。
先使用権に係る使用の制限
仮に先使用権が認められた場合でも、商標の使用には制限が生じる可能性があることに留意しておく必要があります。
まず、先使用権によって使用できる商標とその商品・役務は、他人の商標権についての商標出願前から実際に使用していた商標・商品・役務と同一のものに限られ、これに類似の商標や色違いの商標の使用は許されないと一般に解されています。
また、先使用権によって商標を使用できる地域についても、他人の商標権についての商標出願時に周知性を獲得していた範囲に限られます。
例えば、他人の商標権についての商標出願時に、神奈川県内地域で周知性を獲得していると評価されて先使用権が認められた場合、東京、埼玉や大阪などの神奈川県以外の地域では先使用権による商標を使用することはできません。
さらに、先使用権によって商標を使用する場合でも、商標権を有する他人から、需要者が商品・役務を区別できるようにするための適当な表示(「混同防止表示」)を付すように求められる場合もあります。
この混同防止表示は、例えば、「この商標は〇〇社の商標とは関係ありません」のようなものです。
【ポイント】ここだけは押さえて!
- 商標登録を受けていなくても、例外的に、信頼が蓄積された有名な商標を保護するのが「先使用権」。
- ただし、先使用権が認められるためには、さまざまな要件(条件)があるが、少なくとも未登録の商標が広く知られている(周知性を獲得している)必要がありハードルが高い。
- たとえ、先使用権が成立する場合でも、商標の使用地域や使用態様には制限が生まれる可能性があるので注意。
- 先使用権が成立するか否かは、あくまでも争いになった際に裁判所によって判断される。商標権のように、第三者に対して使用の差止や損害賠償等を求めることはできないことからも、先使用権の制度に頼りすぎるのは大変危険。
つまり、大原則としてブランドは商標登録を受けて保護することが重要なのです!
先使用権や商標登録の相談は、みなとみらい特許事務所へお気軽にお問い合わせください。