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特許の崖・パテントクリフとは?
新たに知財担当者となった方、特に製薬業界の知財担当者が知っておくべき特許用語が『パテントクリフ』です。
パテントクリフとは、日本語に直訳すると「特許の崖」という意味です。
特許の存続期間は出願から20年という縛りがありますが、存続期間が終了すれば市場の独占状態が終了してしまい、特許を活用した製品やサービスによる収益が崖から転落するかのごとく下落します。
このことから、特許の存続期間が終了し、収益が激減することが予測される時期のことを「特許の崖=パテントクリフ」と呼ぶようになりました。
特許の取得には、長い研究期間や莫大な投資を伴うことが多く、特に製薬業界では一つの新薬(製品)を開発するために莫大なコストを要する上に、一つの新薬を守る基本特許、つまり有効成分に対する特許は一つであるため、パテントクリフの到来によって様々な問題を引き起こすことになり、場合によっては会社の経営をも左右する事態になりかねません。
タイミングの良い新薬の開発でパテントクリフを攻略
製薬業界においては様々な問題を引き起こすパテントクリフですが、パテントクリフの攻略における好事例を示したことで有名なのが第一三共です。
第一三共は、高脂血症の対抗薬であるメバロチンによって大きな利益を得ていましたが、パテントクリフの到来によって、最大で2,000億円もあった売上げが330億円にまで激減しました。
もし第一三共がメバロチンの売上げだけに頼っていれば大打撃を受けたことは間違いなかったのですが、第一三共は既にパテントクリフの到来、つまりメバロチンの特許存続期間終了に照準を合わせて高血圧の治療薬である新薬オルメティックの投入を進めていたのです。
特許の存続期間終了に合わせて新薬を投入することで、第一三共はパテントクリフ到来による大打撃を回避、見事に攻略を果たしました。
特にジェネリック製品による追い上げがすべからく訪れる製薬業界においては、タイミングよく新薬を投入することでパテントクリフを攻略する経営戦略が必須となります。
製薬業界だけに限らず、知財担当者は、自社が所有する特許の存続期間を把握しつつ、パテントクリフの到来に照準を合わせてパテントクリフを無事に通過するための新たな知財を編み出す戦略に目を向ける必要があることを覚えておきましょう。
迫りくるパテントクリフを攻略する方法とは
特許ビジネスで収益を獲得している企業は、確実に訪れるパテントクリフを攻略する必要があります。
過去最高の収益を記録したアステラス製薬は、近年のうちに主力の医薬品が次々と特許切れになるため、新薬の開発に向けて研究設備に140億円もの大金を投資しました。
さらに、米国の子会社への投資を縮小して研究活動を終了させることで、研究費用の大幅な削減を実現しています。
パテントクリフの攻略には、アステラス製薬が選んだように新薬の開発という前進的な戦略と投資縮小という経費削減の両方向からの対策が重要でしょう。
近い将来にパテントクリフが訪れるため対策を検討しているという企業は、自社内で会議をかさねるだけでなく、知的財産のプロフェッショナルである弁理士に相談しましょう。
新規に開発・研究している発明を知的財産ビジネスとしてどのように活用するのかを専門的に分析できるほか、既存特許の活用方法や縮小の判断まで、幅広いアドバイスが受けられるでしょう。
特定の特許だけに目を向けるのではなく、自社が保有する特許全体をみわたして総合的な知的財産サービスのコンサルティングが可能です。
近く、パテントクリフの到来によって自社の知的財産ビジネスに転換期が訪れることが予想されるのであれば、信頼できる特許事務所を探して弁理士のサポートを受けることをおすすめします。